NICU・GCU発達評価

Q1:「GMs評価、評価時期」

NICUに入院している・退院した赤ちゃんたちのGeneral Movement Assessment(GMs評価:自発運動評価)を導入したいと考えています。どのタイミングで評価するのが良いでしょうか?

A1:「Writhing・Fidgety movements、ビデオ記録」

GMs(赤ちゃんの運動)は全身を含む複雑で流暢な粗大運動です。GMsは胎児期からあり、時期によりPreterm・Writhing movements(在胎8週から修正46-49週)、Fidgety movements(修正46-49週から55-60週)が見られます。GMs評価は、それぞれのmovements期間内で評価すれば良いですが、その中でもGMsが出現しやすい時期、つまり評価しやすい時期があります。NICUに入院している時期は修正38週から42週、退院後は修正52週から56週あたりで最適なGMs評価ができると考えます。GMs評価ではビデオ記録も行い、多人数での評価をおすすめします。参考までに、管理人は研究の一貫として、修正33週から35週、修正36週から38週、修正52週前後でGMs評価を行っていました。文献的には、NICUに入院した早産児はPreterm・Writhing movementsは未熟性が強く見られる(ぎこちない動きが多い)、早期にFidgety movementsが出現しやすいと言われています。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「Dubowitz評価、新版K式発達検査、評価表自動計算」

当院では、新生児から学童期にかけての定量的な発達評価・検査を導入することを検討しています。評価・検査の中で、Dubowitz評価、新版K式発達検査などを行っていきたいと考えていますが、評価・検査後の結果の数値などを自動で計算できると、業務効率があがると考えています。EXCELを使った計算例を教えてください。

A2:「評価、検査後の結果、計算例」

評価・検査後の結果のEXCELを使った計算はいくつかのパターンでできます。計算例を示します。Dubowitz評価では、EXCELのSheet1でチェックボックス作成→Sheet2でチェックボックスをTRUE・FALSEで反映、そして、「IF関数の基礎」で点数化をします。新版K式発達検査では、「IF関数のネスト」を使用します。詳細は問い合わせください。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「満期産児、発達検査、疾患別リハビリテーション料」

低出生体重児や早産児以外の満期産児のような赤ちゃんに対する新生児発達評価は、疾患別リハビリテーション料の診療報酬の算定対象になりますでしょうか?また、満期産児の生後2-3ヶ月での発達評価をリハビリテーション部門で実施した場合、疾患別リハビリテーション料の算定はできますでしょうか?

A3:「診療報酬、発達及び知能検査」

疾患別リハビリテーション料のうち脳血管疾患等リハビリテーション料が小児疾患に対応している場合が多いですが、満期産児の新生児期・乳児早期での発達評価はリハビリテーション疾患名がつくことがほとんどないため、疾患別リハビリテーション料の算定対象になりません。そのため、一部の病院では心理系診療報酬の「発達及び知能検査」で報酬を算定しています。ただし、対象となる検査項目が決まっていますので、General Movement Assessment(GMs評価:自発運動評価)やNeonatal Behavioral Assessment Scale(NBAS:新生児行動評価)を実施した際は、簡便に評価できる遠城寺式乳幼児分析的発達検査も実施しておくと良いです。これらは「発達及び知能検査(操作が容易なもの)80点 になります。乳児早期でも新版K式発達検査は「発達及び知能検査(操作が複雑なもの)280点になります。 「発達及び知能検査」は新生児期・乳幼児期のいつでも算定可能です。なお、新生児期・乳児早期の診療報酬請求は各県によっても返戻応対が違います。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「脳室周囲白質軟化症、足部クローヌス」

軽度の脳室周囲白質軟化症(PVL)を認める修正40週頃の新生児の反射検査を行い、足部クローヌスを認めました。この足部クローヌスは反射の亢進で異常所見と考えて良いのでしょうか?

A4:「新生児、腱反射」

修正40週頃の新生児での反射検査では、検査者が上手に施行すると、どの児も足部クローヌスを認めます。PVLを認める児でも、この時期に他児と比較し、足部クローヌスが亢進しやすいことはありません。極低出生体重児が症例の研究になりますが、脳性麻痺リスク児の足部クローヌス(腱反射)が有意に亢進していたという結果ではありませんでした。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「低出生体重児、脳血管リハビリテーション料」

NICUリハビリテーションにおいて、低出生体重児の診断名で脳血管リハビリテーション料の算定は可能でしょうか?General Movement Assessment(GMs評価)やDubowitz評価のようなs新生児に対する評価などを行い算定する方が良いでしょうか?

A5:「リハビリテーション対象疾患名、包括的入院管理料」

各都道府県の診療報酬請求の審査支払機関によって違うことも見られますが、低出生体重児の診断名での脳血管リハビリテーション料の算定は認められない場合が多いです。脳血管リハビリテーション料を小児で算定する場合、「脳性麻痺等に伴う先天性の発達障害等の患者」が対象となります。低出生体重児=発達障害患者ではないため、NICUで新生児に介入しているリハビリテーション部門では、「発達遅滞」「脳性麻痺」などのリハビリテーション対象疾患名をつけて算定することが多いです。「発達遅滞リスク」「脳性麻痺リスク」などの「~リスク」は疾患名にならないため算定は困難です。GMs評価やDubowitz評価を実施し、「発達及び知能検査(操作が容易なもの)」という心理系の診療報酬を算定し、返戻がない県も認めます。NICU入院直後はリハビリテーション料が算定できますが、GCUに移ると包括的な入院管理料でリハビリテーション料が算定できない場合がありますので、医療事務に一度確認いただくと良いです。[理学療法士 木原秀樹]

NICU・GCUリハビリ

Q1:「入院中、リハビリ介入」

NICUに入院され、急性期を超え、哺乳なども自立し、退院まで四肢・体幹の運動の経過を診ることが中心になった赤ちゃん達は、入院中は発達評価や家族指導を含めて退院するまでリハビリでの介入したほうが良いでしょうか?成人患者、他の病棟全て回らなければならず、患者さんも多いので、一部のスタッフからは、元気な赤ちゃんは退院まで待たずにリハビリを終了しても良いのではと言われます。

A1:「発達評価、リハビリ対象」

NICUに入院した赤ちゃん達では1500g未満(または1000g未満)出生児、脳室周囲白質軟化症(PVL)・脳室内出血(IVH)児、長期人工呼吸管理児などが発達評価の対象になります。先天異常(13・18トリソミー、骨関節疾患など)を持つ赤ちゃんはリハビリ対象になります。発達評価の対象の赤ちゃんは、理学療法士などが発達評価を行った後に、入院中に発達支援(家族指導含む)を行うか行わないか判断し、発達支援が必要な場合は、改めて医師に相談しリハビリ再指示となります。入院中から発達支援を行う場合は、基本的に外来フォローも必要な場合が多いです。NICUを有する地域病院は多くの患者さんを診ていらっしゃいますので、障害が明確でない赤ちゃんに時間を割くのに疑問を持つスタッフが多いのも確かです。発達評価をして、この赤ちゃんはこの発達が遅れている(例:四肢の動きが単調、四肢・体幹の筋緊張が低いなど)の理由が明確であれば入院中から退院後も継続的なフォローが必要になります。ただ、フォロー理由が他スタッフに明確な回答ができない場合は、発達経過の観察のみで、綿密なフォローせず様子を見て良いと思います。赤ちゃんの発達評価の経験を積んでいくと、単純に、“発達いいなあ”、“発達遅れているなあ”、“発達遅れていて麻痺要素もあるなあ”、という感覚が出て来ます。是非、発達評価でフォロー判断ができる眼を身につけていってください。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「リハビリ、3職種介入」

当院のNICU/GCUでは稼働間もなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のリハビリ3職種が介入することになっています。リハビリの役割、職種間の役割分担、統合的なチームアプローチ、リハビリと病棟の連携などを模索中です。

A2:「リハビリの役割、役割分担」

リハビリの役割は、評価と介入プログラムの作成になります。発達・親子関係・哺乳など評価をし、病棟や親御さんが児にかかわる介入プログラムを作成します。リハビリ職種はより専門的な介入を行います。1-2週間ごとに再評価、介入プログラムを更新していきます。リハビリ3職種の役割分担は、理学療法士では運動発達評価(GMs評価、Dubowitz評価)・介入、作業療法士では知的・感覚発達評価(Brazelton評価)・介入、言語聴覚士では親子関係を含む対人関係・哺乳評価・介入になります。カルテ上やカンファレンスなどで3職種間、病棟での情報を共有し、統合した目標をたて、役割(3職種・医師・看護師など)に沿って支援を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「発達障がい、理学療法士」

当院小児部門では、外来・入院ともに発達障がい児に対するリハビリテーションの充実を進めています。理学療法士が発達障がい児(自閉症など)に対してどのようなことができるとよいのかということに対して、壁にぶち当たっています(理学療法士としての評価や介入方法)。

A3:「新生児・乳児期、発達特性、スペシャリスト」

いわゆる広義の意味の発達障がいは、発達に対するリスクを有する状態を示しますので、脳性麻痺のような身体的な発達の障がいも含みますが、狭義の意味(通常はこちらを指します)の発達障がいは、自閉症スペクトラム(自閉症)や注意欠陥多動症のような発達の特異性を有す状態を示します。NICUに入院されるお子さんで障がいを有する場合の多くは、身体的な発達の障がいではなく、自閉症などの発達障がいです。そこにリハビリテーション科の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がチームで包括的に対応する場合、理学療法士の役割は、①新生児・乳児期の発達障害の早期発見・支援、また②幼児期の発達性協調運動障がいの改善になります。①については 〇メニューその他:ハイリスク新生児の評価と介入(プレゼンテーション) を参考にされてみてください。プレゼンテーション資料の18・19頁に記載がありますが、将来、発達障がいを有する児の多くは、乳児期の運動発達の遅れが指標になることがわかってきています。調査結果をまとめてみると、発達障がいを有する児の乳児期の発達特性は将来、脳性麻痺になるお子さんと似ていますが、脳性麻痺のお子さんよりは運動発達の遅れは緩やかです。乳児期の発達で運動発達・精神発達の両発達とも遅れてきている場合は将来、精神遅滞(知的障がい)になるリスクが高いです。将来、発達障がいになるリスクが高い場合、新生児期からすでに発達の遅れが出てきている(自発運動、頭部コントロール、接触行動など)ことも今後明らかになってくると思います。②については 「発達障害の運動療法 ASD・ADHD・LDの障害構造とアプローチ(著者:新田 收先生、三輪書店)」が理学療法士にとって参考になります。発達性協調運動障がいの評価の仕方が詳細に記載されています。子ども達の将来の発達の偏りは、胎児期・新生児期からの自発運動や行動が根源となっているといわれています。新生児期からの理学療法介入の対象は、脳性麻痺以上に多くは発達障がいや知的障がいなどを対象としていることが多いです。理学療法士はどの職種よりも、新生児・乳児期の発達障がいのスペシャリストであることが1つの役割です。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「軟骨無形性症、抱っこ、頸椎カラー」

生後約45日の軟骨無形性症の赤ちゃんで、生後より頚椎の環軸亜脱臼を認め後方固定術を施行しました。今後退院を想定して、簡易的な頚椎カラー(あるいはその代わりになるもの)が必要と考えています。主に移動時やご両親を含むご家族が安心して抱っこできるように、装着する予定です。赤ちゃんの頚椎カラーとして自作する際に、どのような素材を使用されますか?また、何か良い方法がありますか?

A4:「スポンジ、ロール」

軟骨無形性症の赤ちゃんは、頭部が体に比べ相対的に大きいことや頸部短縮から頸椎カラーの作成が困難な場合が想定されます。この時期での抱っこや移動時には、頭部から上半身(もしくは全身)を大まかに模ったスポンジの上に乗せ、そのスポンジごと抱っこ・移動する方法が容易で安心です。スポンジの上にはタオルやシーツをかぶせ、その上に赤ちゃんを乗せます。スポンジの模りと頭部や上半身の隙間が少なければ、上体を45度程度まで起こすことも可能です。もし頸椎カラーを作成する場合は、”自遊自在”のような芯にタオルを巻いて、そのちくわ型のロールを首に巻く方法もあります。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「先天性内反足、ポジショニング、リハビリテーション」

出生体重1,500g台の早産低出生体重児で新生児仮死と両側先天性内反足を合併しています。現在は保育器(クベース)管理で呼吸状態安定後に開放型保育器(インファントウォーマー)に移床し、両足ギプス固定による矯正治療を行う予定です。①クベースとインファントウォーマーでのポジショニングについて教えてください。②先天性内反足の予後と手術までのリハビリテーションについて教えてください。

A5:「関節可動域練習、感覚運動経験、補装具」

①クベース内では呼吸が落ち着くまで腹臥位管理が多くなりますが、児の抱き枕が低いと足部内反が助長されることが多いため抱き枕を高めにします。インファントウォーマー移床後は足部中間位に保持しやすい側臥位が有用です。どちらの体位もポジショニングロール(壁)などに可能な範囲で足底接地を試みます。②クベースから手術前にかけて主なリハビリテーションは足関節の関節可動域練習です。ゆっくりと可能な範囲で足関節中間位背屈0°を目指します。インファントウォーマー移床後は原始的なキッキング練習や足と足を触る感覚運動経験練習などを行っていきます。関節可動域練習で足関節中間位背屈0°まで改善すれば、手術はしばらく見送りで、短下肢装具または補装具靴使用での経過観察となります。立位・歩行期に足底接地が困難なようであれば手術適応となります。[理学療法士 木原秀樹]

Q6:「脳室周囲白質軟化症、哺乳障がい、反り返り」

修正4ヶ月で脳室周囲白質軟化症の児を担当しています。口蓋裂と食道重複を合併し、経管栄養を行っています。哺乳練習では、空乳首での非栄養的吸啜で良好な吸啜を認めますが、栄養的吸啜では空気嚥下が顕著で5ml程度の哺乳で嘔吐してしまいます。抱っこや支持介助座位では落ち着いていますが、背臥位にすると啼泣しやすく、強い反り返りを認めます。頸部屈曲や骨盤後傾での屈曲方向へのポジショニングも行いますが、抑制できず、抱っこを繰り返すことが続いています。何か良い支援はありますでしょうか?

A6:「哺乳練習、反り返りの改善、発達の促進」

食道重複では球体の重複症の場合、正常な食道を圧迫し、胃食道逆流が起きやすくなりますので、病態を確認します。口蓋裂を合併している場合は重症度にも寄りますが、哺乳の嚥下時に軟口蓋部の隙間から空気も入り込むため、多量の空気嚥下から嘔吐しやすくなります。哺乳練習としては、ピジョン株式会社の口蓋裂用のP型(口唇口蓋裂児用哺乳器)を用いて、口蓋裂を塞ぎやすいやや太め・長めの哺乳瓶を使用します。トロミ成分が配合されたARミルク(胃食道逆流症用)を哺乳し、哺乳後は20-30分程度、30度以上の上体挙上位での座位様姿勢または腹臥位を保持します。また哺乳中こまめにゲップをさせ排気を促します。反り返り(過緊張)も嘔吐の一因になっていますので、反り返りが落ち着いてくれば、嘔吐も軽減してきます。反り返りを軽減させるには、屈曲方向へのポジショニングの導入が第一選択ですが、並行して発達を促していくことが効果を発揮します。主に促したい発達は次の4つになります。①頭部コントロール:骨盤後傾位および下肢屈曲位を保持した座位姿勢を取り、両肩を支持固定し、自らの頭部保持の反応を促します。②屈曲方向への骨盤後傾位や下肢屈曲挙上位:セラピストの膝上に児を背臥位で上半身のみを置き、骨盤・下肢が空中に浮くようにし、下肢が重力に抗して挙がってくる反応を待ちます。下肢が挙がってこない場合は、骨盤の後傾位支持固定すると下肢が挙上しやくなります。③自己鎮静行動:側臥位または腹臥位で児が落ち着きやすい屈曲姿勢を保持し、両肩甲帯を前方固定し、自ら両手を顔や口元へ持っていく行動を促します。④視聴覚反応:児の視聴覚反応を促すことで、児の周囲への反応性が高まり落ち着きやすくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q7:「人工呼吸器管理、反り返り、積極的な介入」

在胎週数29週、出生体重850gで生まれた赤ちゃんを担当しています。出生後、心室中隔欠損症(VSD)、陥没呼吸があり人工呼吸器SiPAP管理でした。安静期・移行期から反り返りは強く、児のストレスを高めない範囲で、ポジショニング、タッチケアなどを行いました。現在、修正39週、体重1600gとなり、人工呼吸器nDPAP管理です。背臥位では落ち着けず反り返りやすく、陥没呼吸も著明にみられるため、様々な体位をとらせたり、抱っこをしたり、積極的な運動・介入を行って良いのか悩んでいます。

A7:「子宮内発育遅延、体重に準じた成熟、安静期・移行期」

本児は、在胎週数29週でも出生体重850gで出生しているため、子宮内発育遅延があり、在胎週数に比べて体重が小さく、未熟性が強い(呼吸器官を含めて身体機能全体の成熟性が遅い)です。また、VSDにより肺うっ血が起きやすく、呼吸も苦しくなりやすく、多呼吸や陥没呼吸が起きやすいです。元々の未熟性の強さにより呼吸器官が成熟しておらず、VSDの影響による呼吸苦もあり、落ち着きにくく、反り返りやすくなります。早産児の場合、修正週数より体重に準じて成熟します。体重から考えると本児は修正32週前後の早産児相当であり、VSDが合併している分、さらに身体的負荷がかかっていますので、まだ安静期、移行期初期の成熟段階です。したがって、現在実施している介入を継続し、抱っこを実施し落ち着けるようであれば、抱っこした状態で自ら屈曲方向へ頸部や体幹を動かしたり、手を顔や口へ持っていくよう、視聴覚反応も含めて促していきます。さらに成熟が進んだ段階で、腹臥位での這い這い反応や頭部の回旋反応なども促していきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q8:「足部外反背屈位、クベース、評価介入の流れ」

在胎週数24週の出生で、現在修正31週の赤ちゃんのリハビリテーションを担当してします。先天異常により両足関節の重度の外反背屈位を認めます。呼吸状態が安定したらギプス治療予定です。保育器(クベース)内での足関節の関節可動域練習で介入をしています。クベース~開放型保育器(インファントウォーマー)~外来フォローにかけての評価や介入の流れについて教えてください。

A8:「関節可動域練習、発達支援、靴型装具」

クベース内では、足部の位置を調整するポジショニングも工夫しながら、関節可動域練習を実施します。インファントウォーマー移床後は、先天異常が足関節だけなのか、四肢の肢位や他の関節の可動域の異常がないか詳細に評価します。移床後は関節可動域練習の継続ほか、原始的なキッキング練習や足と足を触る感覚運動経験練習なども行います。足関節以外の先天異常を認める場合は、発達全体の支援を行っていきます。重度の外反背屈位を認めますので、将来的に靴型装具などの使用も視野に入れます。足関節のみの異常であれば、退院後外来フォローは、経過観察として月1回が目安です。足関節の関節可動域・足部を使った遊びの発達・這い這い・立位姿勢などを評価し、靴型装具の導入時期を検討します。足関節以外の異常があれば、先天異常として“~症候群”のような発達そのものに問題がないか確認し、週1回から月2回の頻度でのフォローが目安です。[理学療法士 木原秀樹]

Q9:「早産児、脳室内出血、バイタルサイン変動」

在胎週数28週、修正30週の脳室内出血を発症した児のリハビリテーションを担当しています。人工呼吸器管理で、基本的には腹臥位管理です。肩・股関節などで伸展制限がありますが、関節可動域練習での刺激で血圧などバイタルサインが変動しやすいです。いまは自発運動を促すようなポジショニングの実施で、低負荷な介入で良いと考えていますがいかがでしょうか?

A9:「出血拡大リスク、ポジショニング、関節可動域練習」

人工呼吸器管理で、リハビリ介入などの刺激で血圧などのバイタルサイン変動がある場合は、脳室内出血の拡大リスクが高いため、関節可動域練習を実施する場合にも、啼泣しない程度でかなりマイルドに行います。基本的にはポジショニングでの低負荷な介入が優先になります。全身屈曲位傾向のため、ポジショニングでは、児の状態が比較的落ち着いているときに、包み込みや囲い込みを緩やかにして、腹臥位管理での自重を利用し関節の伸展を促したり、自発運動により可動域の改善を図ります。人工呼吸器の離脱後から、積極的に多様な体位を保持するポジショニングや関節可動域練習を実施していきます。他動・自動運動でバイタルサインが大きく変動しない時期から、関節可動域制限による発達の遅れなど詳細な発達評価を行い、スムースな自発運動や接触行動なども促していきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q10:「ピエール・ロバン症候群、制限が多い、評価介入」

NICU入院中のピエール・ロバン症候群の児のリハビリテーション担当をしています。高度の舌根沈下があり、体位は側臥位または腹臥位のみで、ネーザルハイフロー(NHF)やnasal DPAPでの人工呼吸管理です。自己鎮静は難しく、泣き始めると落ち着くまでに多くの支援が必要です。このような制限が多い児で優先すべき評価や介入について教えてください。

A10:「抱っこ、自己鎮静行動、視聴覚反応」

舌根沈下の状態を緩和するために側臥位や腹臥位での体位管理を行っていますので、体位を含めたポジショニングで落ち着くことを優先した介入になります。呼吸状態が安定するまでは(呼吸状態が良くなるという意味ではなく、呼吸管理が有効な状態になる)評価ツールを用いるような決まった評価を実施する必要はありません。落ち着きにくい児は、自己鎮静行動として指しゃぶり・手で顔や体を触れる・自ら全身を屈曲位に保持してくるなどを認める、視聴覚反応が明確になってくると落ち着きやすくなります。自己鎮静行動や視聴覚反応の有無を評価します。また、カンガルーケア的な体位での抱っこやホールディングで落ち着く→視聴覚刺激を入力する・他動的に自己鎮静行動のハンドリングを行う順で介入をします。落ち着く時間、自己鎮静行動や視聴覚反応が増えるか評価し、介入を継続します。[理学療法士 木原秀樹]

発達支援(乳幼児)

Q1:「発達の遅れ、座位保持」

1歳4ヶ月のお子さんが呼吸不全で入院してきました。寝返りと介助での座位保持が可能ですが、まだ首のぐらつきあり、発達はゆっくりです。自力での座位保持を促す方法として、膝の上、バンボ、授乳クッションの利用を考えていますが、どのように使い分けたらよいのでしょうか?

A1:「座位保持目標、3種の座位保持練習」

1歳4ヶ月での介助座位レベルになりますので、発達は4-6ヵ月レベル、発達指数約40程度になります。首のぐらつきもあり体幹の筋緊張・筋力の弱さがあります。そのような状況ですと、2歳までの自力上肢支持座位および自力椅子座位の獲得が目標になると思います。手を床についての支持座位と椅子などを使用した座位の獲得は別物として練習していきます。上肢支持座位の練習順は、いずれもあぐら座位で、①児の胸レベルの高さの台(授乳クッション可)に両肘をついて体幹やや前傾位での座位保持、②児の膝上に手をついての座位保持、③床に手をついての座位保持になります。椅子座位の練習順は、①クッションチェア座位、②授乳クッション座位、③バンボ座位、④座椅子座位また幼児椅子座位になります。1歳4ヶ月のお子さんですので、体の大きさ的にバンボは小さく、支持が少なく保持は大変かもしれません。また体幹の筋緊張・筋力の強化のために介助者の膝上で椅子様座位をとり体幹下部または腰を支持し、体幹垂直位を保つ練習を並行して行っていきます。頸部と体幹の垂直位での保持にぐらつきがみられなくなったら、体幹を前後左右に少しずつ傾け、頸部と体幹の立ち直り反応を促していきます。重度の発達遅滞になりますので、原疾患の精査は必要と思われます。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「急性期病院、発達評価」

①当院は急性期病院で小児がん拠点病院でもあるので、長期の治療が必要な子どもの発達支援にかかわることがあります。また、重症心身障がい児の急性病変による入院時の介入、先天性疾患を有する児のリハビリもあります。そのような子ども達の発達評価と介入をどう考えれば良いでしょうか?

②発達評価ツールを使いこなせていないのですが、どうすれば良いでしょうか?

A2:「評価結果の判断、運動と精神発達の関係」

①急性期病院では、リハビリに直接かかわりのないお子さんでも、発達リスクがある児は多いと思います。マンパワーの問題があるので、そのすべてのお子さんにかかわることができないと思います。NICU・GCUに入院した赤ちゃんもそうですが、そのお子さんにいますぐ介入した方が良いのか、数ヵ月ごとの定期評価で経過をみるのか、しばらく介入は必要ないのか、それを判断することが一番大切になります。それを判断する役割は理学療法士・作業療法士になると思います(その後の決定・処方は医師になりますが)。

②発達評価ツールは、運動発達のみ評価するものでなく、精神発達も評価できるものを使用します。発達遅滞・発達障害グレーゾーンのお子さんたちの予後を予測するには精神発達の状況も知る必要があります。簡単に分けると、乳児期の運動発達の遅れ+精神発達の遅れ=発達遅滞リスク、乳児期の運動発達の遅れのみ=神経筋疾患や発達障害リスク、幼児期の精神発達の遅れのみ=発達遅滞・発達障害リスクになり、乳児期の精神発達の遅れのみというパターンはあまりないです。運動発達も精神発達も評価でき、よく用いられているツールは遠城寺式・乳幼児分析的発達検査、新版K式発達検査になります。まず発達評価を行ってから介入をどうするか考える感じになりますが、ツールを使う発達評価は時間がかかりますので、自分なりの発達評価をして発達指数(発達年齢/生活年齢*100)の目安が出すことができれば良いです。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「発達、プログラミング、介入の意味」

発達が生得的にある程度プログラミングされているのであれば、リハビリ介入の意味はどの程度あると考えますか?

A3:「発達伸び期を感知、家族支援」

発達はプログラミングされている生得的なものと生活環境に影響されているものが半々だと言われています。病院を受診されるお子さんでは、例えば、がん治療のお子さんの場合(神経原性でない場合)は生活環境に発達が影響されますのでリハビリでの発達促進は有効です。重症心身障がいや先天異常のお子さんの場合は生得的な影響が非常に大きくなるため、リハビリでの発達促進は思うような結果が得られないことが多くあります。ただ、どの疾患・障がいを持つお子さんにも、発達伸び期というものが必ず定期的にやってきます。それは数ヵ月に1度ずつのパターンが多いのですが、その発達伸び期にリハビリ介入(家庭での介入も含む)すると、確実にリハビリ効果があったといえるような結果が得られることがあります。その発達伸び期を感知できる評価が出来るようになることが大切です。リハビリ介入は家族の不安解消(もしくは寄り添う)にも大きな役割があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「家族指導、グレーゾーン発達」

①家族指導で必要最低限かつ効果が出そうなホームプログラムの実施頻度と内容に目安はあるでしょうか?②障がいを持つお子さんのリハビリ介入と比較し、グレーゾーン発達の児のリハビリ介入の意味はどこにあるでしょうか?

A4:「ホームプログラム、発達評価、介入の判断」

①家族指導での家庭での介入(ホームプログラム)の実施頻度や内容は家庭の状況に応じて検討します。保護者の理解度、兄弟の有無や手のかかり方、祖父母の家事や育児のかかわり状況などを詳細に把握し、ホームプログラムを決定します。有効と考えるホームプログラムは1日5-10分のかかわりを毎日実施と考えます(時間に余裕がある家庭の場合は午前午後で2セット)。そのため、実施してもらうプログラムは1-3つ程度になります。病院外来は2週に1度の頻度で、外来時に評価→ホームプログラム検討→家族指導の流れで介入します。病院外来が1ヶ月に1度の頻度の場合は、家庭での発達状況が変化する可能性が高いため、ホームプログラムは2段階(レベルアップパターン)で指導します。また、日常でできる姿勢保持や運動(遊びでの環境や遊具の選択)も家族に含めて指導します。②大学病院や総合病院ではグレーゾーン発達のお子さんが多いと思います。そのお子さんにいますぐ介入した方が良いのか、数ヵ月ごとの定期評価で経過をみるのか、しばらく介入は必要ないのか、それを判断することが理学療法士・作業療法士の大切な役割になります。またグレーゾーンで不安になられている保護者への理解を深める介入の役割もあると考えています。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「発達を促す関わり、大切なこと」

乳児期の発達を促す関わりで大切なことを教えてください。

A5:「発達の芽、発達のつながり」

評価により促したい発達の具体的なイメージを持ちます。その発達のイメージは細かければ細かいほど良いです。例えば、1つの発達課題を獲得するまでには、いくつもの発達段階を踏んでいますし、その発達段階の最初は半年以上前から出現しています。それを自分は“発達の芽”と呼んでいます。例えば、手のおしゃぶりの発達段階は、①自発運動が増える→②自発運動での肘関節の回旋を含む屈伸が増える→③自発運動での手の顔への接触が見られる→④腹臥位や側臥位で手(手背側把握位)が口に触れるとしゃぶろうとする→⑤口唇周辺に刺激(スタイ、寝具、おしゃぶりなど)が入ると手を持っていき押さえようとする→⑥手掌側把握位で押さえようとする→⑦手掌側で時々手指を伸展して押さえようとする→⑧腹臥位や側臥位のような手を口に持っていきやすい姿勢で意図的に手を吸おうとする→⑨仰臥位で顔の向いた方の手を意図的に口に持っていく→⑩手と手の接触遊びが増えてくる(手と手が合うと母指側が顔側に有ることが多くなる)→⑪手と手の接触遊び中に両手が口元に触れることが多くなる→⑫頭部正中位での手のおしゃぶりが増えてくる→⑫頭部正中位での母指側でのおしゃぶりが増えてくる・・・→続きで、手をじっと見つめることが多くなると手を認識し、リーチが半月後くらいから始まる・・・や、手のおしゃぶりが増えると手指の分離がより増し、物の把握とリリースが上手になるなど、すべての発達がつながっています。ちなみに首の座り(頭部保持)の発達の芽は胎児期の自発運動での頸部の屈伸回旋からになります。早産の赤ちゃんは頸部の筋力が弱いことが多いのですが(全身の筋力に言えることですが)、胎児期に行う運動経験や接触経験が乏しいからです。このような発達のつながりを簡素化して示したのが“赤ちゃんの発達地図”の書籍になります。野球のすぶりの教え方はその選手に合った方法で教えていきます。選手が100人居れば練習方法も100通り以上あります。大げさにはなりますが、促したい発達の芽や各発達段階の反応が見られるまで、100通りの方法を考えます。それでも反応が悪い場合は、促したい発達の段階を1つ前に戻します。[理学療法士 木原秀樹]

Q6:「発達を促す関わり、家族が関わるタイミング」

乳児期の発達を促す関わりで、家族が関わるタイミングに教えてください。

A6:「発達のバランス・発達の反応性」

発達は運動、精神、言語社会から成り立っています。赤ちゃんのうちは運動面が目立ちますが、精神発達、言語発達も見られます。運動、精神、言語社会の発達は平等に評価し、支援することが大切です。各発達課題には反応性の良い時期があり(関わっているとわかりますが)、反応性の良い発達課題は自主トレとして家族に行ってもらえると発達の伸びが目に見えてよくなります。反応性の悪い発達課題も刺激を入れて少しでも反応があれば、それを積み上げるために家族に行ってもらう価値はありますが、家族のストレスが溜まるのであまりお勧めはしません。[理学療法士 木原秀樹]

Q7:「扁平足、ハイカットシューズ」

歩行後の乳幼児の立位・歩行で、指先に力が入りやすい状態での評価、扁平足を認めた場合はその扁平足はいつまで継続するのかなど、足部の評価がむずかしいと感じています。また、ハイカットシューズを処方する場合もどのタイミングで進めれば良いのか、そのような児にどのような運動支援を行えば良いかも悩んでいます。何かポイントがあれば教えていただきたいです。

A7:「扁平足の運動支援、ハイカットシューズ処方基準」

運動発達の遅れが見れらるお子さんの場合、大抵は全身の筋緊張が低下しています。そのため、立位の発達が進むと扁平足が目立つようになってきます。扁平足が継続すると、足底の内側、特に母趾の付け根に体重がかかりやすくなるため、母趾に力が入り母趾屈曲位となる児が見られます。ただ、児の体重が増加してくると足部で体重が支えきれなくなり、母趾は外反してきます(外反母趾)。基本的に扁平足は一生続きます。扁平足を治すのは困難ですから、ハイカットシューズを処方する主な基準は、①立位保持の時に足部が前面接地せず、足部の外側の一部が地面から離れているような重度な扁平、②歩行時につまづきやすい・転倒しやすいの2点になります。ですので、これらの改善がみられるまでハイカットシューズを更新します。ハイカットシューズにより、足部の一部不接地は改善していきますが、短くて1年、長ければ5-6年はかかります。平均2-3年です。扁平足の児への支援は、支援者の意図が通じる幼児以降であれば、足趾を使う運動で足底筋を鍛えることができ、いわゆる土踏まずが形成されてきます。乳児の場合は支援者の意図が通じにくいので、下肢内転で歩く場面やつま先立ちになる場面を設定します。下肢が外転すると足底の内側に体重がかかりやすくなり扁平足が助長されます。逆に下肢が内転すると足底の外側に体重がかかりやすくなり、足部が外反傾向となり土踏まずが盛り上がります。またつま先立ちでも足底筋が働きやすくなります。幅30cm程度の低いブロックの上を下肢内転傾向で歩く、壁に貼った上部のマグネットをつま先立ちでとるなどの場面設定が有効です。体重をかけなければ土踏まずを認めるけど、立位で足底に体重がかかると土踏まずがつぶれるという児は多く見られます。そのような児は土踏まずが形成される可能性がありますので、かえってハイカットシューズで固定せず、普通の靴で足底を使うような環境を設定することが有効です。[理学療法士 木原秀樹]

Q8:「運動発達の遅れ、歩行後フォロー」

運動発達の遅れで理学療法介入するお子さんが多いですが、歩行を獲得した児のフォローはいつまで行えば良いでしょうか?このような児は運動だけの問題なのか、他に問題があるのか、見きわめが難しいと感じています。

A8:「精神発達遅滞、発達障害リスク、フォロー終了目安」

運動発達が遅れているお子さんは、精神発達も同じレベルで遅れている場合と運動発達だけが遅れている場合があります。精神発達も同じレベルで遅れている場合は、いわゆる精神運動発達遅滞になります。運動発達だけが遅れている場合は、いわゆる発達障害の予兆(リスク)のもの、低緊張によるものがあります。精神運動発達遅滞は新版K式発達検査などの包括的な発達検査を実施し、精神・運動とも発達レベルを確認します。発達障害のリスクでは、発語や対人関係などの発達障害に特有な発達・行動を親御さんからの聞き取りや観察で確認します。低緊張によるものは、神経筋疾患などの病的なリスクを検討し、そうでない場合は、家族性(家族も低緊張で小さい頃歩き出しが遅かった方が多い)もよくありますので、家族に確認します。精神発達遅滞や発達障害リスクの場合は作業療法や言語療法に移行しますが、低緊張の場合は、手すりを使用した階段昇降が安定、小走りができる、ボールを蹴ることができるなど片脚支持性の向上、下肢筋力の向上の足掛かりが見えたときに理学療法を一度終了にします。ただ家族には定期的な医師診察を促し、いつでも理学療法に相談できるようにつなげておきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q9:「介入説明、どこまで」

発達障害疑いの乳児への介入が増えている急性期病院の理学療法士です。介入の際、親御さんに「〇〇ができるようになりましたね」、「〇〇が得意ですね」といったポジティブなことをできる限り共有するようにしています。親御さんからの質問や介入内容・目的をお伝えするときに、毎回どこまで説明するか迷っています。
①親御さんからの質問で「年齢・月齢に追いつけているか(何ヵ月相当の発達状況なのか)?」

②「次に何の発達課題の獲得を目指しているか」親御さんと、「初めて〇〇できた」を経験できたら素敵だなと思っています。

③親御さんからの質問で「どのくらいの段階で発達は頭打ちになると予想されるか?」

A9:「発達種別課題、ホームプログラム、発達予測」

発達支援にかかわる上で、月齢に応じた発達の課題や発達の個性について詳しく知っている親御さん(特に初産の方)は多くないため、獲得できた発達課題や得意な発達などのポジティブな情報を共有することはとても大切なことです。急性期病院での発達支援では、とてもセンシティブな質問や親御さんの強い想いが多いです。

①親御さんにとって一番気になることは、「自分の子どもが発達がどのくらい遅れているのか」、であるため聞かれる質問ですが、親御さんの性格にもよりますが、基本的には現在何ヵ月相当の発達かお伝えします。ただし、運動発達が○ヵ月相当で、精神発達が〇ヵ月相当で、さらに細かいことまで評価できていれば、腹臥位は〇ヵ月相当で、座位は〇ヵ月相当で、手の使い方は〇ヵ月相当であると、中でも月齢に近い発達はどの種類、頑張って伸ばしましょうという発達はどの種類、とポジティブな面とチャレンジすべき面と両方伝えます。そうすることで、親御さんも客観的にお子さんの発達を捉えることができます。

②発達支援として、次にどの発達段階を目指しているか伝えることも大切です。特に週に何回も外来にかかれないような場合は、自宅で発達課題にチャレンジしていただくことになりますので、「この発達課題がクリアできたら、次はこの課題にチャレンジしてみてください」と課題を2-3つつなげた状態でホームプログラムを伝達します。そうすると親御さんも先をイメージしながら発達課題に前向きに取り組めるようになります。

③とてもセンシティブな質問ですが、頭打ちになる発達という視点ではなく、(これは経験を積む必要がありますが)いつ頃になるとこの発達課題が達成できると予測を伝えます。ただし、発達障がいの児の場合は個別の特性の幅が広いので、幼稚園・保育園に通う頃には、就学する頃には・・・、のような幅の広い年月での発達予測を伝えます。発達課題の多くは時間をかけて獲得するものがほとんどで、頭打ちする例は多くはないので、支援者もあきらめない想いを伝えることが大事です。[理学療法士 木原秀樹]

Q10:「ピアソン症候群、発達支援」

ピアソン症候群の3歳児で、胃瘻造設後に経腸栄養困難で低栄養状態から筋力低下となり、自力座位保持困難からリハ依頼されました。精神運動発達は寝返り・座位保持・コップ玩具を重ねること、色の理解などが可能ですが、発語はないです。介助立位では下肢支持性が低く、下肢運動や介助立位を嫌がります。家族の希望も伺い、SRCウォーカー(歩行器)による活動促進、玩具使用による座位保持時間延長などを図っています。現在、児童発達支援施設に通所していますが、今後、どのような目標で支援していけばよいか教えていただきたいです。

A10:「発達の予後、生活状態の予測、目標」

運動発達より知的発達が良いお子さんですので、椅子座位保持での机上遊びの発達促進が最も期待できます。運動発達は立位保持装置や歩行器での立位・歩行の促進が期待できます。机上遊びは自分の意志が選択で示せる発達まで到達できればよく、発語ができない分、玩具を選べる、手差しができる、やりとり遊びができるなどが目標となります。運動発達は自力座位保持の再獲得が目指せればよいですが、身体機能的には座位保持装置やバギーなどの長時間座位保持の獲得が現実的な目標となります。下肢は足底過敏などがありそうですので、椅子座位での足底接地持続とそのポジションから介助立ち上がり練習を行い、児の活動性向上や介護負担の軽減につながるよう介助立位の向上を図ります。将来的に特別支援学校に通うことになれば、座位保持装置やバギーで授業を受けられる、自律教育の時間に歩行器で歩くというような学校生活が目標になります。小児では将来の身体機能や精神運動発達の予後、園・学校・生活状態の予測に基づく支援が大事です。[理学療法士 木原秀樹]

Q11:「反り返り寝返る、うつぶせ嫌がる」

首が座る前に反り返って寝返りをしたり、うつぶせを嫌がる赤ちゃんがいます。そのような赤ちゃんはどのような心配事が出てきますか?身体を丸くするような抱っこしたり、ベビーマッサージをおこなっていますが、どのような支援をおこなってあげるとよいでしょうか?

A11:「過敏性、発達障がいリスク、うつぶせ慣れ」

月齢に対して首が座っていない場合は、運動発達の遅れの可能性があります。もう少しで首が座る3ヵ月付近の赤ちゃんには、反り返りの力を使い寝返る児はいますが、心身の過敏性が高く、児の動きたい意志ではなく反り返る場合は発達上要注意となります。また、うつぶせを嫌がる赤ちゃんは、将来這い這いにつながりにくく、発達障がいのリスクがあるといわれています。心身の過敏性が高い場合は、身体を丸くするような抱っこやベビーマッサージなどおこない、さらに首の座り(反り返る方向の力を弱める)や視聴覚反応(周囲に注意がはらえるようになると落ち着きやすい)を促します。また、うつぶせを嫌がる赤ちゃんにおいては、あおむけで横になっている父母の胸の上にうつぶせ寝で抱っこしながら慣らしていきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q12:「扁平足、足底板」

担当するお子さんの多くで扁平足を認め、そのようなお子さんのすべてに足底板は必要ないとは思いますが、どのようなお子さんに足底板を作成するとよいでしょうか?

A12:「外反扁平、ハイカットシューズ、更新」

下肢を含む全身の低緊張を有し、足部の外反扁平により足底の全面接地が困難な児には足底板の導入が有用です。外反扁平を有する児は足関節内果が内側下方に偏位し、足部アーチ(土踏まず)がつぶれることで足底の外側が浮きやすくなります。そのような足底の全面接地の困難や土踏まずの不形成は立位バランスの乏しさや歩行開始また歩容に影響します。足底内側に体重がかかりやすくなることで、下肢もX脚傾向にアライメントが崩れてくることもあります。足底板を作成する際は、足関節の安定を図るためハイカットシューズをセットとし、足部の成長とともに足底板の更新を行い、平均2-3年間継続すると効果(足底が全面接地してくる)を認めやすいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q13:「視線合いにくい、社会性発達」

視線が合いにくく、将来的に社会性の発達が気になる赤ちゃんやお子さんとのかかわり方を教えてください。

A13:「視線の発達、行動興味、真似」

将来の社会性の発達が気になるお子さんも、乳児期は視線が合っているようにみえることがあります。視線の発達は、乳児期では”動くものを見る”、”髪形に興味を持つ(髪形で人の区別をしている報告もある←視線が合っているようにみえる)”から、”人の行動に興味を持ち、人の表情や手の動きを追う”から、”人の真似をする(言葉真似も含む)”に移り変わってきます。このような視線の発達が社会性(人とのかかわり)の発達につながっていきます。視線の発達として、視線が合うことと並行して、親の行うこと特に親の手先の動きを見る、親の手先に手を出してくる、親の口元を見る、親の口元に手を出してくることに対して支援をしていくと社会性の発達につながります。[理学療法士 木原秀樹]

Q14:「靴型装具、作成、手順」

歩く前の乳児で、靴型装具の作成のタイミング、作成の基準、作成の手順について教えてください。

A14:「立位の始まり、足底全面接地、補装具費支給制度」

靴型装具が必要と考えられる乳児では、自らつかまり立ち上がり、立位で遊ぶ・つたい歩きが始まる頃、立位時に足底が全面接地しない場合に作成を検討します。靴型装具の作成では、足首まで覆うバスケットシューズのようなハイカットシューズで、足部の土踏まずの形成を促す足底板を併用します。室内で履く習慣をつけ、屋内を歩くことが多くなれば、外出時のみ履きますが、足部の形状により、室内履きも継続し、室内用と屋外用を作成します。足部の一部不接地は改善していきますが、靴型装具の利用は短くて1年、長ければ5-6年はかかります。平均2-3年になりますので、足部の成長に合わせて更新していき、足部の形状が改善し足底接地を認めれば、通常の靴を使用していきます。靴型装具は市販品の靴をベースに加工しても数万円の費用がかかりますので、費用負担軽減のために補装具費支給制度を利用します。補装具費支給制度は身体障害者手帳を所有していると、支給がスムースです。身体障害者手帳の発行年齢は市町村で差があります。理解がある市町村では1歳前後から申請受付・発行をしてくれます。身体障害者手帳を所有していない場合は、補装具費支給制度の利用を市町村に申請し、審査のもと支給が決定されます。申請の際は、指定自立支援医療機関・保健所・15条指定医等の医師の意見書が必要になりますので、医療機関等の医療相談を通して意見書を申請します。[理学療法士 木原秀樹]

Q15:「ダウン症候群、歩行獲得、介入終了タイミング」

当施設のフォローアップでは、理学療法で独歩を獲得した後、作業療法や言語・心理療法などに移行するシステムになっています。理学療法では未歩行のお子さんを担当することが多く、特にダウン症候群のお子さんは歩行を獲得しても、ガニ股や足部外反を認める児もあり、介入終了のタイミングに悩んでいます。介入終了の指標があれば教えてください。

A15:「介入終了指標、下肢アライメント修正、フォローアップ間隔」

ダウン症候群のお子さんは、発達の幅が広く、1歳代で歩くお子さんもいれば、3歳代で歩くお子さんもいますので、フォローアップ期間の個人差が大きいです。理学療法では、ダウン症候群のお子さんに限らず、独歩獲得までをフォローアップ期間(介入終了)としている病院・施設は多いです。しかし独歩の発達にも幅があり、ガニ股や足部外反(扁平足)で歩行が不安定な児もいます。独歩を獲得した時点で終了とするには、親御さんが不安を感じることも多いため、介入終了の指標は、上手に転べる・立ち上がれる、手つなぎや手すり支持で階段昇降が数段できるなどになります(参照:■発達支援(乳幼児)Q8)。ガニ股や扁平足の児は、それらの下肢のアライメントが修正されてくるのは平均2-3年(最大5-6年)かかり、完全に修正されることは困難な場合が多いです(参照:前述Q7・12・14)。自らつかまり立ち上がり・立位で遊ぶ、つたい歩きが始まる頃から、ガニ股や扁平足を修正する市販のハイカットシューズの紹介、または靴型装具(ハイカットシューズ(必要時補高)+足底板)を作成し、3-6ヶ月ごとの間隔を空けたフォローアップに変更していきます。また、理学療法の介入が終了するまでは、作業療法や言語・心理療法が介入しないフォローアップシステムでしたら、理学療法で運動発達以外の精神発達(遊び・対人発達など)も評価・介入していく必要があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q16:「ダウン症候群、ずり這い・いざり、四つ這い獲得」

ダウン症候群のお子さんは低筋緊張のため、這い這いせずに主たる移動がずり這いやいざりであることも多く、理学療法では膝荷重や四つ這いの獲得にこだわらず、立位や歩行を促したほうが良いのかと悩むことがあります。

A16:「独歩獲得後、体幹の使い方、下肢の多様な動き」

ダウン症候群のお子さんの独歩獲得時期は個人差が大きく、その大きな要因は、体重(増加不良)・心疾患(複雑心奇形)・知的障がい(精神遅滞)などになります。また、頭部が大きいなどの体格や体幹筋力のアンバランス、体幹・下肢の低筋緊張なども直接的に独歩獲得の要因になります。独歩獲得後も腰椎前彎・股関節外転・反張膝・外反扁平足などが顕著な場合、その後の歩行の発達課題(転倒しにくい歩行・階段・走行など)の獲得がスムースでない場合が多いです。ダウン症候群のお子さんは、いずれ独歩を獲得することがほぼ確実であるため、早期の独歩獲得を目標とせず、独歩前に充分な体幹の使い方、股・膝・足関節(下肢)の多様な動きを体験させることが基本的な介入になります。ただ、体幹の筋力バランスの脆弱性、股・膝・足関節の低筋緊張が顕著な場合、ずり這いやいざり移動から発達課題がなかなか先に進まない(先が見えない)という状況になる児がいます。そのような児では、腰椎前彎・股関節外転・反張膝・外反扁平足を修正しながら、積極的に立位保持の練習を行っていくこともあります。そして独歩獲得後に、階段での這い這いや昇降練習、不整地(砂利道・芝生)、坂道・段差などでの歩行練習で、体幹の使い方、股・膝・足関節(下肢)の多様な動きを体験してもらいます。中重度の知的障がいもともなうダウン症候群のお子さんでは、独歩獲得を進めたほうが知的にも経験量は増えやすいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q17:「扁平足、足底板、作成方法」

歩行を獲得した低出生体重児の立位で、下腿と踵骨のライン舟状骨の落ち込み(外反扁平)が認められます。理学療法士が足底板を作成する場合、フェルトを用いることも多いようですが、おすすめの作成方法があれば教えてください。

A17:「クッション、土踏まず、形状調整」

足部の外反扁平が顕著で、立位時の踵接地や足部外側の一部が浮くなどを認める場合は、足底板だけでは有効性が低いため、整形外科などで足関節周囲を補高したハイカットシューズと足底板の作成が必要になります。既存の靴に足底板のみを作成する場合は次の手順になります。
①硬めの固形クッションを用意します(補装具業者から余ったクッションをもらうなど)。  
②お子さんの立位で、理学療法士が徒手的に足底の土踏まずを持ち上げて、下肢アライメントを確認しながら、おおよその足底板の形状を確認します。
③クッションをおおよその足底板の形状にカッターで削ります。
④立位での足底にクッションをあてがい、カッターで少しずつ削りながら、形状を調整していきます。
⑤足底板が出来たら、両面テープで靴の中(土踏まずの位置)に接地します。
⑥5-10分ほど靴を履いてもらい、靴を脱いだ後の足底の足底板跡(赤み)を確認し、大きさ・高さなどの形状を再調整します。
この作成方法は、フェルトを用いるより形状を調整しやすいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q18:「ダウン症候群、引き起こし、肘内障」

療育体操のプログラムとして背臥位からの座位へ引き起こす場面があります。そのような場面で、ダウン症候群や低筋緊張傾向のお子さんは肘内障を発生するリスクは高いのでしょうか?

A18:「タイミング、発生リスク減少、両肩保持」

ダウン症候群や低筋緊張傾向のお子さんは、上肢(腕)を強く引っ張ることで肘内障(肘の輪状靭帯と橈骨頭がはずれかける亜脱臼状態)を起こす可能性はあります。ただし一般のお子さんとの発生確率の差は不明です。頸部や体幹の筋力を高めるために、体操で背臥位から座位へ引き起こす際、児の上肢の力が入らず、肘が過伸展状態で引き起こすと肘内障が発生するリスクは高くなります。引き起こす際は、児が上肢に力を入れ始め、療育者の手を握る、肘が軽く屈曲するタイミングで引き上げると、肘内障の発生リスクは大幅減少します。低筋緊張低下が著しい児の場合、両上肢を引っ張らず両肩を保持し体を引き起こすことが有用です。[理学療法士 木原秀樹]

Q19:「首がすわる時期、反り返り、寝返り」

首がすわる時期に反り返りが強く、寝返りが早くできる児がいますが、そのまま様子をみていて丈夫でしょうか?

A19:「あおむけ、うつぶせ、引き起こし」

元々赤ちゃんの首の力は、首を曲げる方向より伸ばす(反る)方向が先に発達していきます。また寝返りの発達は、首や体を丸めて寝返る(後期タイプ)より、首や体を反り寝返る(初期タイプ)ほうが先に発達します。首や体を反る力が強い児の場合、首がすわる時期に寝返りができる児がいます。そのような発達は異常ではありません。ただし、反り返りが強いことで、長い時間あおむけがとれない、うつぶせで手をつかずに頭と体を持ち上げる、抱っこしにくいなど、他の発達課題に影響がある場合は、脳や筋肉の病気がないか受診を勧めます。他の発達課題に影響がみられない場合は、首や体を曲げる(起こす)方向の力もつけるために、あおむけからおすわり方向に“引き起こしの練習”を1日数回行います。“引き起こしの練習” のコツとして、あおむけから両手を持ち引き上げる際、頭がついてきにくい(体を丸めてこない)児では、両肩甲骨付近を支えて、体を5~10度程度持ち上げ待ち、頭が垂れた状態から頭を持ち上げようとしてきた際に、体をそのまま起こすようにすると、首や体を曲げる(起こす)力がつきやすくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q20:「あおむけ、背這い、様子をみる」

寝返りはできるが、うつぶせでの動きよりもあおむけで動く(背這い)児がいますが、そのまま様子をみていて大丈夫でしょうか?

A20:「うつぶせ、手足持ち上げ、発達課題」

背這いで動くことが多いが、うつぶせを嫌がらない、あおむけで手足を持ち上げて遊ぶ場面がみられる場合、そのような発達は異常ではありません。ただし、A19と同様に、うつぶせで手をつかずに頭と体を持ち上げる、抱っこしにくいなど、他の発達課題に影響がある場合は、脳や筋肉の病気がないか受診を勧めます。他の発達課題に影響がみられない場合は、背這いを辞めさせることにこだわらず、あおむけでの発達課題(手足を持ち上げて遊ぶ、手しゃぶりする、おもちゃを持つなど)、“うつぶせでの発達課題”(うつぶせのまま遊ぶ、うつぶせで向きを変えるなど)ができるようにかかわります。“うつぶせでの発達課題” として、うつぶせを行う場合、寝返りができるようになる6ヵ月頃までは(一般的には1歳まで)、必ず親(保護者)が近くで見ているようにします。児が起きている(目が覚めている)限り、親が見守っていれば、うつぶせでの練習に時間制限はありません。うつぶせは、将来的に頭や体の力をつける、はいはいや立ち上がりの発達につながる重要な発達課題です。うつぶせを嫌がる児の場合、親が寝そべり児をうつぶせで抱っこし、3-5分ほど落ち着いていられる、というような練習から始めます。[理学療法士 木原秀樹]

Q21:「向き癖、頭の変形、矯正ヘルメット」

寝返りはできるが、うつぶせでの動きよりもあおむけで動く(背這い)児がいますが、そのまま様子をみていて大丈夫で向き癖や頭の形を気にして質問される親が多くなったように思います。頭の形が変形するほど向き癖がついてしまう原因はなんでしょうか? 矯正ヘルメットを使用するなど、頭の変形を防止するためにはどうしたらよいでしょうか?

A21:「同じ姿勢、後頭部、頭の向き変える」 

赤ちゃんの向き癖は、同じ姿勢を取り続けることで起きやすく、さらに同じ姿勢でいることが長く、自ら頭の向きを変えることができない児で後頭部の変形が起きることが多いです。特に大人しい児であやし抱っこ回数が少なく、あおむけで寝ている時間が多い児は向き癖がつきやすいです。あおむけでは右向き、うつぶせでは左向きが多くみられます。ロールタオルやクッションで背中を支えたよこむきでは頭がまっすぐ向きやすくなります。つまり、抱っこを含め、1日の中で様々な姿勢をとることが、向き癖を修正していくことになります。さらに、あおむけやうつぶせで自ら頭の向きを変える発達を促すことで、後頭部の変形を防ぐことができます。あおむけでは、首の下の隙間を埋めるような小さなロールタオルを置くことで、頭の向きは変えやすくなり、目と目を合わせ、声かけをしながら、左←→真ん中←→右に顔向きを変えるよう誘導します。生後6ヶ月までの乳児の約40%に頭蓋の変形が見られ、向き癖にともなう頭蓋変形は成長にともない改善が期待できるとされます。頭蓋の変形がある児は頭蓋縫合早期癒合症(狭頭症)などの病的な場合もあり、病的頭蓋変形の鑑別が必要であるとされます。頭蓋形状矯正ヘルメットでの治療は、生後7ヶ月までに開始すると効果的であるとされ、頭蓋骨の成長が著しい乳児期にオーダーメイドのヘルメットを約半年間1日20時間前後装着します。矯正ヘルメットが必要になることは多くなく、姿勢を変える、頭の向きを変える発達を促すことで向き癖や頭の変形を防ぐことが期待できます。また、頭にやさしいと思われがちな柔らかすぎる布団は、児が自ら頭の向きを変えることの妨げになりやすいですので、適度な硬さの布団で寝かせます。[理学療法士 木原秀樹]

Q22:「シャフリングベビー、いざり、病的」

シャフリングベビーは様子をみていて大丈夫なのでしょうか? 病的なものなのか?その判断が難しいです。「いざりで動くけど大丈夫ですか?」の親の問いに対して助産師ができることはありますでしょうか?

A22:「手足を使う、這い這い、感覚過敏」

シャフリングでも手足を使って前に進んでいる、向きを変えている場合は、様子をみて大丈夫なことが多いです。シャフリングで、お尻をずらしながら前に進み、足で床を蹴って進まない場合や、移動中に手を床につこうとしない場合は、手足や体の使い方が上手にならない、手足が太くならないなどの影響が出てくる児がいます。シャフリングベビーは、あらためて這い這いを促すことが困難な場合がほとんどです。児の発達経歴を聞き取りし、うつぶせを行ってこなかった、うつぶせを嫌がって出来なかった場合、床に手足や体をつくことを嫌がる感覚の過敏性がある児がいます。手のひらや足の裏などの感覚過敏性がある児では、親の手で圧迫するように児の手足に触れる、肌触りのより生地でしっかり触れるなどの脱感作療法を行うこともできますが、おおむね発達外来などの受診を勧めます。シャフリングでも手足を使って前に進んでいる、向きを変えているかどうか観察し、さらに、シャフリングから親や台につかまって這い上がるもしくは立ち上がるような、手足を使う、手足に体重をかけるような場面を作るように支援します。[理学療法士 木原秀樹]

Q23:「おすわり、歩く、させない」

シャフリングベビーは様子をみていて大丈夫なのでしょうか? 病的なものなのか?その判断が難しいです。「いざりで動最近、「おすわりをさせない」「早く歩かせない」といった考えの母親が以前より多くいるように思います。これらはどのような理由からでしょうか? また、児がしようとすることを「させない」ことはできるのでしょうか?

A23:「育児情報、チャレンジと失敗、繰り返し」

このような考え方は、おそらく育児ネットからの情報による影響からになります。骨格が充分に発達していないうちに、おすわりや歩かせる練習を行うことは、児の背骨や脚を歪ませるのではないかという心配があります。基本的に児が自ら体を起こして座ろうとする、つかまっていた台などから手を放して歩こうとすることは、止める必要はありません。そのような自らのチャレンジと失敗(倒れる・転ぶ)の繰り返しで発達課題を獲得していきます。児の筋骨の発達が不充分であれば、すぐ体が倒れたり、座り込んでしまうなど、自分で状況を調整してきます。児のやる気を止めることは、かえって発達課題の獲得に負の影響を及ぼします。育児ネットや雑誌などで、発達課題の目安となる月齢が書かれていることがあります。その目安となる月齢より、自分のお子さんが発達課題を行えない場合は、親もあせり、おすわりやたっちの機会を増やそうとします。その場合、おすわりが出来ないからおすわり練習を行う、たっちが出来ないからたっち練習を行うのではなく、発達課題を細かく区切り順に練習することで(例:体を傾け床に手をつく→手で支えおすわり→体を起こす→手を離しおすわり)、児の体への負担感が小さくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q24:「親、対応、ワンパターン」

親の対応がワンパターンで児の成長に伴って対応することができない、教えられたことしかできない方が多くなってきたように思いますが、いかがでしょうか?

A24:「ネット検索、育児方法、赤ちゃんと向きあう」

昔は子育てする親の近くに発達や育児について教えてくれる祖父や祖母がいました。いまはネットでの検索で(しかも出典が明らかでないことが多い)児の発達状況や育児方法を学んでいる親も少なくありません。そのような場合、“児の成長に合わせて”というより、“児の月齢に合わせて”育児方法を変えていく感じになりやすいです。わからないことがあると、ネット検索すればだいたいは回答らしきものが出てきますので、ワンパターンにもなりやすいです。赤ちゃんと向き合い、この笑い方は? この泣き方は? この甘え方は? 何を求めているのか試行錯誤しながら考える機会が少なく、You Tube先生に回答を求めるような育児が定着しているような感じがあります。赤ちゃんと向きあえるような育児環境でなくなり(支援者の不在、両親共に勤務、早期から保育園に通うなど)、育児に余裕がなくなってきた要因もあります。赤ちゃんの魅力に引き込まれるような、赤ちゃんの発達に興味を持つような育児支援も必要です。[理学療法士 木原秀樹]

Q25:「親、児の世話、体の使い方」

親の体について、楽に児のお世話できるような体の使い方などを知りたいです。

A25:「ベッド上、膝屈伸、安定」

“児のお世話が楽にできるような” のお世話ということがオムツ交換や授乳など、児を動かすことをイメージされているようでしたら、基本的に床上や低めの赤ちゃんベッド上でのお世話でなく、腰をかがめなくても良い高さのベッドを用意してもらうことが、親の体が楽になる一方法になります。その延長線上として、膝の屈伸を意識し、腰をかがめずに児のお世話を行う習慣をつけることも良い体の使い方になります。また、抱っこを行う際に児のどこを支え、児をどのように抱えれば良いのか知ることも、児のお世話(扱い)が楽になる一方法です。児の抱っこでは、首とお尻を支え、児の体は親の体に密着させることで、児も親も安定した状態になります。児の抱っこのポイントがわかると、泣きやすく、反り返りが強い児も、抱っこで落ち着かせやすくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q26:「生後1ヶ月頃、運動や遊び、指導」

生後1ヶ月頃からの運動や遊びの発達の指導について教えてください。

A26:「赤ちゃん体操、力をつける、感覚遊び」

生後1ヶ月頃までは、赤ちゃん自らできる運動や遊びは少ないため、赤ちゃん体操を実施し、スキンシップや体を動かす楽しさを知るように図ります。生後1ヶ月頃から「見る・聞く力をつける」「首の力をつける」「うつぶせの力をつける」「脚を持ち上げる力をつける」「寝返りする力をつける」などの運動の発達を促すかかわりをします。おしゃぶりや手と手を触る、手で衣服を触るなどの感覚遊びや両親の指や玩具を握るなどの遊びも始めます。[理学療法士 木原秀樹]

Q27:「おすわり、わり座、関わり」

おすわりの際に、わり座(お姉さん座り)しかしない場合はどのように関わったらよいでしょうか?

A27:「股関節硬さ、あぐら座位、脚の使い方」

おすわりでわり座しかしないお子さんでは、股関節の内転筋の硬さがある場合が多いです。内転筋の硬さの原因として、先天性股関節脱臼や脳性麻痺の疾患・障がいが潜んでいることもあります。児を横に寝かせて、両脚をあぐら上に他動的に開く際、硬さがある場合は、整形外科の受診を薦めます。股関節の硬さがない場合は、椅子座位を多くしたり、膝を押さえるようにあぐら座位を取る時間を作ります。おもちゃで誘導しおすわりのままお尻での回転、おすわりからうつぶせへの姿勢変換、這い這いを促すことで、脚の使い方を覚えてもらうことも有用です。[理学療法士 木原秀樹]

発達支援(学童・成人期以降)

Q1:「ダウン症、思春期以降、土踏まず」(親御さんから)

うちの子は正規産で生まれ、生直後にダウン症の疑いがあると言われました。筋肉の張りが柔らかい、筋力が弱いと聞いたので、生後2ヶ月から理学療法のリハビリを始め、3歳になった現在でもリハビリは続けています。10代後半や20代の先輩方から、リハビリを卒業した後に足の土踏まず(アーチ)が崩れて、またアーチを促すインソールが必要になったという体験談を複数聞きました。実際いかがでしょうか?

A1:「肥満、アーチ形成、食事と運動」

ダウン症の方は、思春期になると肥満体型になる方も少なくなく、その影響で何とか保っていた足のアーチが体重でつぶれてくることがあります。肥満は足のアーチへの影響に限らず、思春期以降の運動不足←→肥満の悪循環に入るという問題になります。ですので、乳幼児期には補装靴での足部アーチ形成を充分行っていただき、その後の肥満体型予防(適正な食事と運動)に気を配っていきます。食事での偏食傾向は仕方ないですが、ある程度の副食制限は必要です、運動ではダウン症の方が好きなリズム体操や時間をかけて歩くこと、また筋緊張の低さや筋力不足を補うための階段昇降や自転車(補助輪付)、プールなどを行うことをお薦めします。[理学療法士 木原秀樹]

リハビリ評価

Q1:「GMFM、ライセンス、対象年齢、フォーマット」

GMFMの評価を臨床で用いるために、日本語版テキスト(監訳:近藤和泉先生、医学書院)を参考にしています。①使用にあたってライセンスは必要でしょうか(評価用紙の購入の必要性など)?、②対象年齢は何歳~何歳まででしょうか?、③評価結果のデータ入力用のフォーマットはあるのでしょうか?

A1:「CanChild、スコア、Item MAP」

①日本における粗大運動能力尺度(Gross Motor Function Measure:GMFM)のライセンスは特にありません。リハビリテーションのための子どもの能力低下評価法(PEDI)は評価用紙が販売(医歯薬出版)されており購入が望ましいのですが、GMFMは評価用紙の販売がありません。CanChild(https://www.canchild.ca/)のサイトで「GMFM-88&66 Scoresheet」を検索すると英語版の評価シートが表示されダウンロードできます。②対象年齢はありません。GMFMは5 歳児が遂行可能な運動課題88項目で構成されています。ですので、一般的には5歳児のGMFMの運動課題の達成度(スコア:Score)は100になりますが、脳性麻痺を有する子どもは学童期でも100に達しない場合があります。③GMFMの評価結果を入力するGMFMというSoftwareはなく、GMAE(Gross Motor Ability Estimator=GMFM-66)というSoftwareがデータ入力用のフォーマットになります。CanChildのサイトで「GMAE」を検索するとダウンロード画面が表示されます。 Softwareに評価結果を入力すると、Item Mapというものが表示されます。このMAPは運動課題項目を番号順に並べたMAPと達成難易度順に並べたMAPの2種類があります。達成難易度順に並べたMAPが臨床上有効で、MAPにGMFM-66 Scoreというラインが引かれますので、そのScoreラインより左側にある赤丸がついていない運動課題は、本来であれば達成できる課題、Scoreラインよりすぐ右側にある赤丸がついていない項目が、少し頑張れば達成できる課題という見方をします。Item MAPを使用すると、運動課題の目標が立てやすく、本人や保護者への説明がしやすくなります。[理学療法士 木原秀樹]

■先天異常

Q1:「レット症候群、歩行獲得」

レット症候群で手もみが盛んな1歳のお子さんを担当することになりました。レット症候群のお子さんは歩行を獲得しますか?走ることはできるようになりますか?退行はいつから始まりますか?歩けなくなることはありますか?

A1:「発達、リハビリ」

レット症候群は、乳児期に発症し、睡眠・筋緊張・姿勢の異常、知的障害などが顕著に出現してきます。運動発達は座位から遅れが目立ち始め、独歩も遅れます。独歩は獲得できる児が多いです。その時期は個人差が大きく、知的障害の程度にも関係してきます。基本的に知的障害は重度になりやすいです。レット症候群ではありませんが、5歳で独歩獲得した児もいますので、その程度の最大経過をみる必要もあるかと思います。一度歩行を獲得すると退行は老化に伴う要因のほうが大きいと思います。個人差はありますが、走行は困難で、手を引いてあげれば小走り程度できる感じになります。理学療法としては手もみを中心とした常同行動による肩を含めた上肢の関節可動域の維持・改善、常同行動および筋緊張異常による側弯(主に猫背)の予防が大切になります。作業療法としては常同行動以外の手の機能の獲得になりますが、重度の知的障害を伴うことも影響し、長期支援が必要になります。他の手の機能を獲得する前に退行していく可能性も高いです。嚥下機能は成人まで維持されると思いますが、頸部・肩周囲の筋緊張異常による嚥下障害も気に掛ける範疇になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「福山型筋ジス、関節拘縮、装具療法」

1歳の女児で福山型先天性筋ジストロフィー症の児を担当しています。現状の発達としては、側臥位までの寝返り可、腹臥位での頭部挙上不可、静的座位保持可です。徐々に四肢の各関節に硬さを認めるようになり、母親から装具を作成したいと相談を受けました。股・膝関節はすでに完全伸展位は困難で、腹臥位でもお尻が浮いてくるような状態です。エビデンスからも装具療法で関節拘縮の進行が抑制できることは期待しておらず、装具の導入は立位練習を開始する頃で良いと考えていましたが、その間に関節拘縮が進んでしまうことも心配しています。装具を作成したほうが良いのか悩んでいます。

A2:「運動機能、装具療法、有用性」

福山型先天性筋ジストロフィー症(Fukuyama congenital muscular dystrophy;FCMD)では、独歩を獲得する児(運動機能レベル7)は稀です。1歳程度の早期から膝関節その後股関節の屈曲拘縮が顕著となり、3-8歳は運動機能の維持期となります。児の現状の運動機能はレベル0-1で、今後の運動機能の獲得は緩徐となる予測が経ちますので、下肢の関節拘縮予防または拘縮進行の抑制は重要です。ただし、装具療法での関節拘縮の予防はFCMD児に限らず、24時間365日装着しない限り困難です。立位練習を開始する際に、骨盤帯付長下肢装具または立位保持装置を作成することが有用ですが、その時点である程度の股・膝・足関節の拘縮は避けられません(拘縮に合わせた装具の作成)。したがってご両親が希望され、医師も意見書作成に同意されるのでしたら、装具療法の有用性(限界)について理解してもらったうえで、装具導入による児や家族の生活の質の低下を招かない限り、作成する選択肢は大いにあります。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「軟骨無形成症、運動発達、介入考え方」

寝返りができる軟骨無形成症の児のリハビリテーションを担当しています。軟骨無形成症の特有なアンバランスな体型のためか、腹臥位や座位など順序だった運動発達の獲得が難しいように思います。また、ガイドラインには早期からの座位練習は推奨しないことや拘縮や脊柱変形などの予防も考慮する必要があると示されています。本症の運動発達、遊び、家族指導などの介入の考え方について教えてください。

A3:「発達課題、ガイドライン、社会的自立」

軟骨無形成症の児の特徴として、低身長・近位四肢短縮・腰椎前後彎・頭囲拡大などがあります。そのため出生直後からのアンバランスな体型が良好な運動発達の阻害になり易いです。本症の児は18ヶ月までに独歩を獲得する場合もあれば、36ヶ月で獲得する場合もあり、発達の個体差は大きいです。発達の個体差は定頸時期に沿って概ね予後(独歩時期)がずれていきます。また、発達課題の獲得時期が順(定頸→座位→這い這い→立位→歩行)を追わない場合(這い這いせず背這いする、座位より立位保持を先に獲得するなど)もあり、歴年齢や発達課題の順にこだわらず、介入および家族指導を行います。本症のガイドラインにあるように、通常は微細運動や精神(遊びや対人関係など)発達に問題はありませんが、運動発達がゆっくりになることで、関連した微細運動や精神発達がゆっくりになることもあります。リハビリテーションでは、主に運動発達促進と拘縮予防(主に肘・股関節)にして介入します。運動発達では、抗重力姿勢である座位や立位など脊柱や下肢のアライメントを修正(矯正)しながら介入しますが、座位時の胸腰椎後彎や股関節伸展制限による立位時の腰椎前彎は避けられない傾向にあります。ガイドラインにあるように、無理に座位を取らせると胸腰椎後彎が悪化する可能性はあります。しかし、座位を自ら保持できるまで待つことは、児がとりやすい姿勢で座位保持を学習してしまう可能性や座位に関連した体幹筋力強化および遊びの発達がゆっくりとなる可能性もあります。よって、体幹保持がしやすい椅子の使用や脇の高さのテーブルにもたれて体幹を若干前傾位にした座位で遊ぶなど、胸腰椎後彎が悪化しない方策で体幹の筋力強化に対する介入を行います。立位保持の練習も同様の考えた方になります。各体位(腹臥位・座位・立位)で行う遊びの発達は、歴年齢でなく各運動発達の獲得時期と相応に獲得出来ているか経過を追う(評価実施)必要があります。各運動発達の獲得時期と相応の遊びの発達がゆっくりになっている場合は、遊びの発達の介入も行っていきます(通常は遊びの発達の獲得のほうが運動発達に比べ優位であると考えます)。ご家族には、将来的に独歩ができる可能性が高いことをお話し、不安軽減に努めます。また、機会を図り、児が社会に出るに従い、低身長や四肢短縮による生活への支障、O脚の進行による下肢痛や歩容異常をきたす可能性があり、生活機能の質を保証するために、四肢の近位である上腕骨や大腿骨の骨延長術施行を学齢期後半で検討する必要性が高いというお話もします。将来的な児の社会的自立を見込めることを前提に、ご家族の児の障がいに対する受容、前向きに育児を行うことを支援していきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「18トリソミー症候群、側弯、ポジショニング」

18トリソミー症候群の2歳女児の訪問リハビリテーションを担当しています。腹臥位や寝返り、椅子座位保持などの練習を行っています。右側弯が顕著になってきています。側弯の評価や予防・改善方法について教えてください。なお、四肢もよく動かすのでポジショニングでの姿勢保持は困難です。

A4:「評価・改善方法、ポジショニング困難」

右側弯の原因(要因)について評価します。
①体幹(脊柱起立筋)の筋緊張に左右差があるか→臥位で動くと体幹が左側に側屈しやすい 
②体幹(脊柱起立筋)の筋力に左右差があるか→椅子座位で徐々に体幹が左に傾いてくる
③体幹が右側に側屈しやすい姿勢を多くとっているか→臥位で顔や両膝の左向きが多い
④左右どちらかの側臥位を偏って保持することが多いか→脊柱が左右に弯曲しやすい

①~④の評価結果の逆が予防・改善方法になります。
①体幹を他動的に右側屈・右回旋し左脊柱起立筋を持続的に伸張する、または背臥位で体幹を左右対称的に屈曲し持続的に伸張する(骨折しない程度に)
②椅子での座位保持で体幹が左側に傾かないように体幹角度を低くする、または左体側を保持する
③ポジショニングの各体位で顔や両膝を正中位に保持する、または右凸側弯が軽減するまで、顔や両膝を右側に向ける
④ポジショニングで左右均等に側臥位を保持する、または機会が少ない側臥位方向に寝返り練習を行う

臨床的には、多様な要因で側弯は形成されますが、特に側弯が悪化しやすい要因は、「24時間中で多く保持している姿勢(体位)がある」、「多く保持している姿勢で四肢・体幹が対称的でない」です。また、動きのある、動きが盛んなお子さんもいます。その場合はポジショニングで有用な姿勢(体位)が保持できないことが多いです。そのようなお子さんの支援の考え方は、「自発的な動きは制限しない」、「側弯が矯正される方向の自発的な動き(寝返り、頸部や体幹の回旋など)を促す」、「1日1-2回他動的に側弯を矯正する(徒手、または体幹を対称的に保持する臥位・座位保持装置などの利用)」になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「デュシェンヌ型筋ジストロフィー、歩行可能、評価」

3歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの歩行可能な女児で、行いやすい評価バッテリーはありますでしょうか?

A5:「行動、関節可動域、発達評価」

X染色体上に存在する傷ついた(ジストロフィン)遺伝子によりデュシャンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は発症します。ただし女性は、X染色体が2つ存在するため、保因者にはなりますが、発症はしないとされています(稀に症状を認める児がいます)。一般的にDMDでは、筋力低下、関節可動域制限(拘縮)、運動機能、心肺機能などの評価を行います。3歳児の場合、6分間歩行テストやMMT(徒手筋力テスト)などの評価バッテリーにのせることは難しいです。評価を行うポイントとしては、①行動の中で四肢・体幹のMMTを捉える(ただしあまり意味はありません)、②関節可動域評価(側弯も含めた評価、特に股・膝・足関節)、③精神(知的)発達と運動発達との乖離(差が大きいほど症状が進んでいる)、になります。運動発達では、立ち上がり・走行・階段などが困難な場合が多く、これらはDMD症状の特徴となりますので、このような所見がわかる評価を実施します。幼児期のDMDの評価では発達評価の施行がベターとなります。発達評価としては、新版K式発達検査やBayley乳幼児発達検査の施行がわかりやすく、精神発達と運動発達の乖離があまりない場合、両方の発達指数が低いようであれば知的障害を伴っていることになり、発達指数が平均的であれば、症状はあまり進んでいないという所見になります。精神発達より運動発達の発達指数が低い場合は、症状が進んでいることがわかります。新版K式発達検査等の施行が困難な場合は、運動発達の評価として、デンバー式発達スクリーニング検査、粗大運動能力尺度(GMFM)などの施行が望ましいです。背臥位からの起立時間(Gowers time)評価は、下肢筋力の変化を客観的に見ていく場合に良いです。[理学療法士 木原秀樹]

■重症心身障害・医療的ケア

Q1:「医療的ケア児、理学療法士、役割」

今後も増え続けていくだろうと思われる「医療的ケア児」に対して、理学療法士の役割また何を求められているか教えていただきたいです。

A1:「超重症心身障害、呼吸器系障害、健康維持、介護負担軽減」

「医療的ケア児」は大きく分けて2つのタイプのお子さんがいます。1つのタイプは「超重症心身障害」、もう1つのタイプは「呼吸器系障害」になります。「超重症心身障害」の児における理学療法士の在宅支援での主な役割は、健康維持、介護負担軽減になります。健康維持では、人工呼吸や気管切開管理が必要なお子さんの肺炎や誤嚥予防のために在宅で継続できる呼吸理学療法やポジショニングを導入します。また心負荷増加や消化器系障害を起こさないための身体の変形・拘縮にも細心の注意を払い、ご家族へのポジショニング導入支援や関節可動域練習を行っていきます。介護負担軽減では、家族にとって一番負担となっている入浴・更衣・移動の負担軽減のための環境整備、身体の変形・拘縮予防、姿勢保持維持・向上で介入します。健康維持、介護負担軽減ともに、とれない姿勢(背臥位・側臥位・腹臥位・座位など)を作らないことが大事なことです。「呼吸器系障害」の児の発達はそれなりに良いものの気管切開管理で吸引が必要な場合が多いです。理学療法士の在宅支援での主な役割は、「超重症心身障害」と同様で肺炎や誤嚥予防のために在宅で継続できる呼吸理学療法を導入します。このタイプの児は吸引の医療的ケアがあり幼稚園や保育園になかなか入園できないという課題があります。「呼吸器系障害」の児は知的障害や発達障害を持つ児も少なからずいますので、地域の理解があり幼稚園や保育園に入園できても、友達と馴染めない、集団で遊べないことが目立ってきます。また発達性協調運動障害を認めることがありますので、理学療法士は協調運動の介入などの役割があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「側弯、手術、プレーリー」

3歳で脳症を発症した15歳の重症心身障害のお子さんで、コブ角背臥位60度、座位90度の脊柱側弯症があり、半年後に手術予定です。脊柱手術に向けて、頸部・体幹筋の筋力を向上させるために、理学療法では、姿勢を矯正しながら座位練習などを行っています。座位練習ではプレーリーを装着したほうが良いでしょうか?また側弯症の手術目的や必要な支援・プログラムについて教えてください。

A2:「側弯の原因、手術の目的、動的脊柱装具」

脊柱側弯症のお子さんの脊柱手術はリスクが高いため、そう多くはされていません。このお子さんが手術を行う理由が理学療法のプログラムにつながります。手術を行う理由として、痛みが発生している、内蔵(肺、心臓、消化器)を圧迫し機能不全を起こしている、介護負担(移動、着替え、入浴)が大きくなっているなどがあげられます。手術の内容としてある程度の矯正固定術になるかと思います。手術を行ういずれの理由にしても、手術後の側弯の再悪化を防ぐためにも、側弯が悪化してきた原因を考えて、理学療法を行う必要があります。側弯の主な原因は背臥位時の両下肢の膝の倒れによる骨盤・体幹の捻じれです。その場合は、膝が倒れた方向を凹としたCカーブの側弯になります。膝が倒れた方向と反対側に顔面が向く頸部回旋がともなう場合はSカーブの側弯になります。ですので、側弯の再悪化防止には体幹筋力向とともに、頸部の回旋や膝の倒れ・骨盤回旋の矯正が重要になります。側弯の再悪化を予防するポジショニングの再検討も大切です。ちなみに頸部・体幹筋の筋力を向上させるための上体拳上位や座位保持は、重力による更なる側弯悪化が目立つようになりますので、体幹装具(動的脊柱装具:プレーリーくん)を装着したほうが良いです。頸部・骨盤回旋の矯正やポジショニング以外に、手術を行う理由となっていることに対応します。特に側弯により病的状態に陥りやすい肺(肺炎や無気肺が発生しやすい)に対しては呼吸理学療法も併用し、肺疾患の改善や予防に努めます。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「姿勢保持、内部環境、外部環境」

重症心身障がいの子ども達と姿勢保持用具の使用を含めた環境との関係において、快適な姿勢保持により生理的機能や睡眠覚醒状態(state)が安定すると、自己の内部環境が安定し、外部環境に働きかけるやすくなると考えて良いでしょうか?

A3:「state、興味・気づき、姿勢保持導入区分」

姿勢の安定は、筋緊張やstateの安定につながります。特にstateの安定は外部環境への興味や気づきにつながります。重症心身障がいの子どもは、state1・2(睡眠状態)とstate5・6(興奮・啼泣状態)を行き来する状態が多く、外部環境への興味や気づきにつながりやすいstate4(覚醒)を保つ快適な環境設定が重要です。ただ、快適な姿勢保持=好きな姿勢・取りやすい姿勢=変形の助長の構図もあり、姿勢保持の導入区分(内部環境の安定・外部環境への働きかけと変形の矯正・予防の区分)を明確にする評価が必要です。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「側弯、体幹装具装着不可、体位」

側弯がある重症心身障害を有する児童で、体幹装具である側弯矯正装具が装着できない場合、やらなければならない体位とそのポイントについて教えてください。

A4:「特定の体位、側弯助長、体位変換」

側弯がある児の有用な体位は、①姿勢が対称的なりやすい、②リラックスしやすい腹臥位ですが、普段から腹臥位をとっていない児に腹臥位をとってもらうのは困難です。“やらなければならない”というような特定の体位をとるアプローチではなく、満遍なく様々な体位をとることが側弯や変形を予防・軽減します。特定の体位を長くとることが最も側弯や変形を助長します。基本的に、左(右)側臥位→右(左)側臥位→背臥位(または上体挙上位)を2-3時間毎に満遍なくとる体位変換を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「側弯症、矯正固定術後、アプローチ」

側弯症の矯正固定術後の児童の身体の使い方やアプローチについて教えてください。

A5:「禁忌、側弯矯正装具、筋力低下予防」

側弯症の手術では脊柱をスクリュー(ネジ)などで固定していますので、原則体幹を強制的に曲げ伸ばしおよび捩じることは禁忌です。また、重症心身障害を有する児での手術後は側弯矯正装具を導入することが多いので(矯正した側弯を再度悪化させないため)、側弯矯装具を装着し、積極的に体幹を起こし、頸部や体幹の筋力低下を防ぎます。[理学療法士 木原秀樹]

Q6:「身体、力入りやすい、かかわり方」

あおむけ、うつぶせ、バギー座位などで身体の力が入りやすい児童のかかわり方について教えてください。

A6:「緊張、緩める、クッション」

重症心身障害を有する児が各体位で力(緊張)が入りやすい場合、おおむね頸部は伸展位、上肢(肩関節)は内転位、肘関節は伸展位または屈曲位になります。下肢(股関節)も内転位、膝関節は伸展位になります。その場合、緊張が入った四肢を少しずつ動かしていき、緊張が緩んだらそこにクッション(硬めで動きにくい重いタイプ)を挟み置きます。そうすることで身体の力が抜けやすくなります。①頸部伸展位→頸部をゆっくりと屈曲させ、後頭部にクッションを置きます。②上肢(肩関節)内転位→肩をゆっくりと外転させ(脇を広げ)、その間にクッションを挟みます。③下肢(股関節)内転位、膝関節伸展位→股関節をゆっくりと外転させ(股を開き)、その間にクッションを挟みます、また股関節や膝関節を90度以上曲げて保持します。[理学療法士 木原秀樹]

Q7:「筋緊張強い、拘縮予防」

筋緊張が高い児童の拘縮予防のために行った方がいいことはありますか?

A7:「緊張緩和、関節可動域運動」

筋緊張が高い児は関節が拘縮しやすいため、上記A6の方法で全身の緊張を緩和させたあと、拘縮を起こしやすい力の入った四肢をゆっくりと可能な範囲で動かします。関節は1日1回動かせばその関節は拘縮しにくくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q8:「蛙様肢位、身体への影響、予防」

あおむけで長くいると姿勢が崩れ蛙様肢位になりやすいですが、蛙様肢位が続くことでの身体への影響と予防について教えてください。

A8:「特定の体位、長時間継続、生活・内蔵器影響」

あおむけ(背臥位)に限らず、特定の体位を長時間継続することで、重力に押しつぶされたような方向で四肢は倒れ、体幹(胸郭)も扁平になります。四肢は同じ肢位が継続すると拘縮し、その影響で、様々な体位はとりにくくなり、抱っこもしにくくなり、着替えも大変になってきます。胸郭が扁平に変形すると、肋骨の可動域が制限されることや横隔膜の最大の収縮が得られにくくなることなどで深呼吸が困難になります。その影響で、肺に痰が溜まりやすくなり、気管支炎や肺炎を起こしやすくなります。また、食道や胃また消化器系が狭窄化もしくは偏位し、胃食道逆流による嘔吐(嘔吐による誤嚥)や便秘が起きやすくなります。いずれも中学生くらいの年齢から症状が急速に起こりやすくなり、命にかかわるまで悪化することがありますので、特定の体位を長時間継続することなく、満遍なく体位変換を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q9:「学校卒業後、病院リハ、いつまで」

当院リハビリテーション(リハ)外来に通院されている重症心身障害を有する児がいます。来年、特別支援学校の高等部を卒業し、地域の事業所に通所予定です。病院でのリハを今後どうするか決めるのですが、病院でのリハはいつまでと考えますか?

A9:「評価、生涯、フォロー」

基本的に障がいを有する方は成年期・高齢期になっても、障がいを診てもらえるフォロー体制が必要です。学校卒業後、早期の老化とともに心身障がいの進行は早まります。障がいに対して投薬や装具の新設・修正が困難になる方が多くなり、病院リハでのフォローは生涯必要です。ただし、現状の病院リハ体制では、患者であふれてきてしまうため、日常のリハ(またはリハ的なこと)は、事業所や訪問リハで行い、地域の病院では定期的な評価や事業所などへの指導内容の検討を行います。通院期間が空く体制でのフォローを継続することが望ましいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q10:「側臥位、反り返り、ポジショニング」

気管の分泌物が多く、気管切開を行っている児童を担当しています。排痰促進や側弯防止のために、側臥位を保持したいのですが、筋緊張が高く、頸部の伸展から反り返りやすいです。ポジショニングの対応を教えてください。

A10:「腹臥位、筋緊張、押さえ込み」

排痰が必要な児では様々な体位をとります。各体位をとる際、側臥位は児にとって体を支える支持面(基底面)が狭いため、不安定な体位で、筋緊張が高まりやすくなります。気管切開を行っている場合の排痰は、腹臥位保持装置での腹臥位保持を優先します。腹臥位は、各体位の中で支持面(基底面)が最も広いため、児にとって安心・安定感が増すとともに、頸部から体幹・下肢にかけて屈曲位を保持しやすいため、全身の筋緊張が軽減されます。気管切開を行っている場合は、気管切開部に空間を設けることで、安全に腹臥位保持ができます。反り返りやすい児で側臥位保持を行う場合は、反り返り始める部位を徒手やクッションなどでしっかり固定し、反り返りを押さえ込みます。最初は反り返ろうとグイグイ押してきますが、反り返りをあきらめるまで押さえ込むと、じきに筋緊張が緩んできます。一時的に筋緊張が緩んでも、何かの刺激で(ちょっとした触覚や音など)ですぐ筋緊張が高まってしまう場合もありますので、反り返る場所を押さえるクッションなどは、重いものを使用するか、もしくはずれない場所に起きます。筋緊張が緩むまで反り返りを押さえ込む→じき筋緊張が高まる→筋緊張が緩むまで反り返りを押さえ込む・・・を繰り返していくと、じきリラックスする時間が長くなってきます。[理学療法士 木原秀樹]

■呼吸理学療法

Q1:「繊毛機能不全、呼吸管理」

線毛機能不全症のお子さん(小学3年生)の外来での呼吸指導の依頼を受けました。喀痰不全とレントゲン上で一部浸潤影を認めます。段差昇降にてSpO2低下を認め、聴診上含気の乏しさがあります。深呼吸およびハフィング指導を行いました。今後、どのように呼吸指導を進めれば良いでしょうか?

A1:「喀痰管理、ピークフロー」

効果的な外来は週1-2回での呼吸評価およびカフアシストまたはEzPAP+ピークフロー(270L/min以上の咳の最大呼気流速)での呼吸理学療法が良いと思います。喀痰促進のため、自宅でのコーチ2(深吸気)+ピークフロー実施の呼吸指導を行います。喀痰不全で聴診上常時複雑音(ロンカイ、コースクラックルなど)が聴収されるようでしたら、自宅でのカフアシストレンタル(診療報酬請求可)も選択肢に入ると思います。また、ご家族にも聴診器を購入していただき、お子さんの肺音の聴診ができるようになると、児のより良い健康管理もできるようになります。肺の中の分泌物貯留を少しでも軽減してあげるとレントゲンやSpO2に変化が出るかもしれません。呼吸指導の一番の目標は家族(本人・両親)での喀痰管理習得と咳力(ピークフロー)UPになりますので、外来時にその都度咳のピークフローを測り、その向上を目指していきます。呼吸指導の根拠・流れについては、「在宅人工呼吸管理児の呼吸理学療法と排痰保持装置(マニュアル)」がありますので問い合わせください。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「肺炎、呼吸介助」

PICU(小児集中治療室)に2ヵ月の赤ちゃんが肺炎で入院しました。胸郭の形成が未成熟なため、肋骨を下制する呼吸介助法(スクィージング)はリスクがあると考え、上部胸郭の前後方向のみ呼吸介助を行っています。効果的な呼吸介助の方法はあるでしょうか?

A2:「スクィージング、方法」

先天的な疾患・障がいを持っていない赤ちゃんでしたら2ヵ月児のスクィージングは可能です。呼吸介助の力加減と胸郭を押す方向が適切であれば低出生体重500g前後の児もスクィージングは効果があります。実際の様子は「赤ちゃんにやさしい発達ケア(メディカ出版)」を参考にされてみてください。2ヵ月の児ですので、施行者の両手で児の胸郭を覆い、胸郭全体をスクィージングします。肺炎による無気肺形成の場合は、無気肺部に相当する肺野の吸気を促進する呼吸介助を意識します。肺炎による分泌物貯留過多の場合は、呼気を促進する胸郭全体を絞り込む呼吸介助を意識します。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「乳児、体位排痰法」

乳児の体位排痰法は成人と反対の体位をとると聞いたことがあります。乳児の体位は成人と同じでしょうか、反対でしょうか?

A3:「体位、リスク」

乳児も体位排痰法の体位は成人と同じです。新生児を含めた小児全般に同じです。以前小児の排痰の体位は成人と反対という話を聞いたことがあります。その理由として、1つ目は、小児の場合肺内の空気は上側より下側が多い、2つ目は、小児の場合肺内の空気は成人と同様に上側が多いが、痰が溜まっている肺を上側にする体位では、充分な換気ができなくなりリスクがあるでした。ただ、小児は成人と比較し解剖学的・生理学的に未熟であるにしても大きな違いはありません。小児でも体位排痰法の体位は成人と同様ですが、換気量不足のリスクはありますので、呼吸管理に注意を払い体位排痰法を行います。また、体位排痰法を実施する際、呼吸器管理をしている場合は頸部の角度で用意に挿管チューブがつぶれやすいリスクがあります。体位をとった直後に頭の位置をすぐさま確認し、換気が安定しているのであれば頭をタオルなどで固定します。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「脊髄性筋委縮症、EzPAP」

脊髄性筋萎縮症(SMA)で気管切開はしていませんが、ピークフローが100L/分の6歳児がいます。3本タイプの吹き戻し(巻き笛)で呼吸練習しており、3本中2本までしか出せません。呼吸理学療法としてEzPAPを用いることに有効性はありますか?

A4:「呼吸理学療法、肺(胸郭)拡張」

SMAでの呼吸理学療法のエビデンスは確立していませんが、呼吸理学療法の基本的なところからEzPAPの有効性について述べます。①SMAのゆっくりと経過する呼吸機能の低下は仕方ありませんが、最終的な呼吸理学療法の目的は肺炎や無気肺による急性呼吸不全に予防になります。②肺炎や無気肺悪化を防止するためには、排痰能力の向上になります。③排痰能力の指標である咳のピークフローは低値だと思いますが、咳の能力の要素は、肺活量にありますので、基本的にはエビデンスが確立している筋ジストロフィーの呼吸理学療法に準じます。④呼吸理学療法の直接的な目標は、胸郭の可動性の向上および深吸気による肺(胸郭)拡張になります。⑤EzPAPは吸気により深吸気を促し、呼気時の呼吸抵抗により気道・肺拡張を促すことができます。⑥胸郭の可動性の向上および深吸気による肺(胸郭)拡張はカフアシストの使用が一番効果がありますが、6歳児ですと適応できないことも多いので、EzPAPの使用も有効です。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「カフアシスト、設定基準」

小児を担当することが多くなり、カフアシストの導入を検討している症例がいます。カフアシストの圧や実施時間などの設定基準について教えてください。

A5:「小児、オートモード、設定基準」

排痰補助装置には、MI-E、IPV、BCV、HFCWOなどがあり、カフアシストは機械的陽圧陰圧療法(mechanical insufflation-exsufflation:MI-E)の1機種になります。小児の場合、装置のタイミングに合わせて深吸気を行うことが困難な場合が多いため、オートモードを使用します。臨床での効果を経た設定基準の参考値は、幼児に使用する場合、陽圧陰圧±20-30cmH2O、最大吸気呼流量、吸気1秒間・呼気0.5-1秒間・休止0.5-1.0秒間、学童に使用する場合、陽圧陰圧±30-40cmH2O、最大吸気呼流量、吸気1.0-1.5秒間、呼気0.8-1.5秒間、休止0.8-1.5秒間です。バイブレーション使用の有無は症例別で検討しますが、バイブレーションにより緊張が高くなる児も多いため、使用を控えることもあります。実施時間は、1分間 ×3 回(または 3分間 ×1 回)/セット、2-3セット/日が効果的です。各排痰補助装置の概要・設定基準については、「在宅人工呼吸管理児の呼吸理学療法と排痰保持装置(マニュアル)」がありますので問い合わせください。[理学療法士 木原秀樹]

Q6:「新生児、呼気終末陽圧」

新生児の呼吸理学療法を勉強しています。人工呼吸器での呼気終末陽圧(PEEP)設定について、新生児は病態によって設定は異なりますか?新生児呼吸窮迫症候群(RDS)や慢性肺疾患(CLD)などの設定はある程度決められてますか?

A6:「RDS、CLD、High PEEP」

新生児のPEEPの基準は病態ごとに概ね決まっています。ただ病院によってその基準が違います。通常の人工呼吸器管理は4cmH2O程度になります。RDSでは、開きにくい肺胞を開くためにPEEPは5cmH2O、CLDでは、肺損傷を最小限に抑えるために低換気圧、短い吸気時間、多めの呼吸回数で、機能的残気量確保による無気肺予防のためPEEPは5cmH2O以上に設定します。いずれもHigh PEEPという設定になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q7:「慢性肺疾患、呼吸理学療法、バック加圧」

慢性肺疾患(CLD)の児で、修正28週頃から呼吸理学療法で排痰促進の介入を行っていますが、体位変換するだけですぐに 酸素飽和度(SpO2)が低下し、90台への戻りにも時間を要し、介入を一時中断することが多くあります。その際、人工呼吸器の設定パターンや吸気圧をすぐに切り替えますが、 SpO2回復に時間がかかります。このような場合、その都度、バック加圧をして回復を早めたらどうかと思うのですが、それは児にとっては負担になるのでしょうか?

A7:「酸素化改善、排痰体位、呼吸介助」

CLDの児の場合、吸気圧の上昇が疾患の増悪に繋がるため、バック加圧での酸素化改善は控えたいです。そのため酸素化改善には吸気圧を高めるより、吸入酸素濃度を高めることが優先になります。体位変換するだけでもSpO2が低下し酸素化が改善しない場合は、現体位でのsqueezingなどによる呼吸介助などの呼吸理学療法が有用です。呼吸理学療法の効果を高めるためには排痰体位をとり、呼吸介助を行うことが最も有効であるため、体位変換直後から介入せず、事前に看護師に体位変換をしておいてもらい、SpO2が落ち着いてから呼吸介助を行う方法が最も効果があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q8:「カフアシスト導入、検査・評価」

カフアシストの導入についてですが、当施設には診療所は併設されていますが、レントゲンやエコーなどの環境が整っておらず、それらの検査は大学病院などに依頼することがほとんどです。 そのような設備環境でもカフアシスト導入は困難でしょか。カフアシストを導入する場合、どのような検査などが必要で、どのような段取りをとるべきでしょうか?

A8:「胸部聴診・触診、酸素飽和度・胸郭拡張性」

カフアシストの導入の際に必要な検査は、肺炎や無気肺などの病的所見がある場合、胸部レントゲンですが、それは病態把握と実施効果を比較するために用います。ですので、カフアシストの導入が肺炎や無気肺などの改善ではなく、それらの予防が目的であるようでしたら、胸部の聴診・触診所見と酸素飽和度(SpO2)のリアルタイムな所見があれば充分です。日常の定期的な聴診所見やSpO2値、また分泌物量の変化が、カフアシスト導入の効果所見になります。さらに胸部の触診により胸郭の拡張性が改善しているか確認します。カフアシストの設定が導入効果に左右しますので、本Q&A「呼吸理学療法のQ5/A5」を参考にご覧ください。[理学療法士 木原秀樹]

Q9:「カフアシスト、設定、排痰促進」

小学校低学年の染色体異常の女児で、運動発達は臥位レベル、気管切開あり、体格は5歳児くらいです。体調が悪くなると酸素0.5L程度使用します。普段から側臥位や腹臥位をとるように心がけており、排痰が必要なお子さんです。 カフアシストの設定は、陽圧陰圧±10cmH2O、吸気1.0秒間・呼気1.0秒間・休止0秒間です。この設定ではスッキリと排痰されることはありません。設定が適切か(吸気より呼気を長くしたほうが排痰が促されやすいか?)、 気管切開の場合の注意点など教えてください。

A9:「カフアシスト、体格、吸気」

5歳児くらいので体格ですと、陽圧陰圧±20-30cmH2O程度は必要です。呼気より吸気の時間を長くして、肺に充分空気を入れ、分泌物の移動を促します。基本的に吸気と呼気は同じ時間とします。吸気より呼気を長い時間に設定すると、吸気量<呼気量となり、患児が苦しくなります。また、休止時間が設定されていない場合、呼気のあとすぐに吸気で加圧しても肺が絞られ緊張している状態なので充分空気が入ってきません。気管切開児でしたら、圧障害リスクも低く実施できますので、適切な設定では大きな効果が見込めます。肺に充分空気が入れば分泌物の流動性が高まり、排痰体位効果で排痰が促進されます。[理学療法士 木原秀樹]

Q10:「カフアシスト、不随意運動、呼吸回数」

小学校4年生(体格は4~5才くらい)の重症心身障害児のカフアシストの設定についてです。染色体異常がありバリスムス様の不随意運動が見られ、気管切開が施術されています。カフアシストE70を使用しており、基本設定は陽圧陰圧±13cmH2O、吸気・呼気・休止1.0秒間が処方されています。1セット5回で使用していますが、5回呼吸のうち多いときで3回ほど吸気が入らず、呼気に切り替わることが起きています。不随意運動もあり、タイミングが合わず、1秒間の吸気では短いのかとも考えますが、原因として何が考えられるのでしょうか?

A10:「吸気刺激、スパズム、気管狭窄」

カフアシストの吸気刺激による気管狭窄(不随意的スパズム)での吸気停止(呼気抵抗)を感知しての呼気モード切替が起きています。吸気圧を20cmH2Oに高めるか、呼吸回数を5回から10回に増やし、吸気刺激に慣らしていきます。重症心身障害のお子さんのなかでも、特に不随意運動を呈しやすい児は5回目くらいから吸気が入りだすというイメージになります。[理学療法士 木原秀樹]

Q11:「NICU・CGU、呼吸介助法、対象」

NICUやGCUでのスクィージングの対象となる赤ちゃんの見極めが難しいです。

A11:「スクィージング、早産・低出生体重児、換気改善」

NICUやGCUに入院する赤ちゃんで、無気肺形成や肺炎などによる分泌物貯留過多を認めた場合は、呼吸介助法(スクィージング)などの呼吸理学療法の実施を検討します。スクィージングは基本的にどの児にも実施でき(早産・低出生体重児:修正24週前後、体重500g前後から)、どの手技よりも効果が大きいです。自発呼吸の赤ちゃんは、呼吸のタイミングを合わせること、深い吸気および長い呼気を得ることが難しいため、効果が出にくいです。スクィージングは、人工呼吸器またはバック加圧の吸気呼気に合わせて実施しますが、より深い吸気および長い呼気を得るためにバック加圧を併用するほうが最も効果を認めやすいです。その際、スクィージングの胸郭を押す呼気終了と同時にタイムラグなくバックの加圧を行うと、スムースかつ最大の深い吸気が得られ、換気が改善します。その吸気量で充分な呼気量と呼気速度が得られるため、排痰量も増加します。[理学療法士 木原秀樹]

Q12:「慢性肺疾患、抜管、再挿管」

生後4ヶ月(修正1ヶ月)の早産児を担当している理学療法士です。慢性肺疾患(CLD)に肺気腫を合併しており、人工呼吸器管理です。気管支ファイバーでの所見で軽度の軟化症を認めます。今まで2回抜管を試みましたが、再挿管となっています。次回抜管できない場合は、気管切開を行う予定です。抜管が成功するために、どのような介入を行うと良いでしょうか?

A12:「抜管困難、びまん性無気肺、姿勢管理」

気管・気管支軟化症が軽度の場合、抜管困難の主な要因はCLDおよび肺気腫(CLD進行の結果)になります。酸素投与(酸素毒性)や挿管および陽圧換気がCLDや肺気腫の悪化要因ですので、抜管を進めます。抜管後は再挿管を予防するために、非侵襲の呼吸補助の一つであるネーザルハイフロー(NHF)などを用います。NHFは軟化症のような狭窄症状に対して気道の開通(気道確保)や換気改善に有用です。しかし、CLDや肺気腫による肺内の二酸化炭素の貯留が高度な場合、いわゆるNHFでは対応できないような換気不全が継続する際は、気管切開による在宅酸素療法(HOT)を目指すことになります。理学療法では、換気不全を改善するために、抜管前にびまん性の小さな無気肺の改善、排痰の促進で介入します。抜管前の充分な排痰と無気肺改善で、呼吸機能検査で静肺胸郭コンプライアンス(Cst)が1ml/cmH2O/kgを越える値が出れば、換気不全が改善した成果となり、再挿管リスクは低くなります。抜管後はポジショニングいわゆる姿勢管理対応になり、児にとって安楽で換気が得られやすい腹臥位等の姿勢保持を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q13:「脊髄損傷、人工呼吸器管理、離脱」

頚髄レベルの脊髄損傷の5歳のお子さんを担当しています。気管切開後、在宅用の人工呼吸器管理中でS/T(自発呼吸/IPAPとEPAP切替)モード、 IPAP(吸気気道陽圧)12cmH2O、EPAP(呼気気道陽圧)5cmH2O 、FiO2 (吸入酸素濃度)0.21。また日中はCPAP(持続陽圧換気)5cmH2O+PS(プレッシャーサポート)7cmH2Oです。どのような考えで人工呼吸器から離脱していきますでしょうか?

A13:「換気量不足、日常生活活動、離脱時間延長」

人工呼吸器管理の離脱の流れや指標(評価)は、成人と変わりありません。5歳のお子さんであれば、呼吸数(20前後)、HR(100前後)で、酸素飽和度は成人と同じ基準で、呼吸困難感は、特に陥没呼吸で判断します。通常の離脱は、日中CPAP+PSからPSを下げていくか、CPAPだけにしていきます。人工呼吸器管理が必要な児は、自発呼吸では普段の換気量が不足し、排痰が乏しくなり、結果的に無気肺や肺炎も生じやすくなる、という場合が多く、外出時など一時的には呼吸器から離脱するが、長い目で見ると、完全離脱しないほうが、肺の成長には良いということがあります。日常生活活動上でも、呼吸筋力低下を防ぐためにも離脱時間の延長は必要で、毎日1回1-2時間以上の離脱ができれば、生活上、介護上の児・家族の負担感はかなり軽減します。本児の場合、これから学校に就学にすることを加味すると、移動や姿勢保持手段も併せて、必要な離脱時間を検討していきます。夜間は充分に肺を休める、換気回復のためにS/Tモードで、日中も離脱時間が長くようであれば、人工呼吸器管理中はCPAP+PSで換気回復を早めるほうが良い場合もあります。[理学療法士 木原秀樹]

■哺乳・摂食・嚥下

Q1:「哺乳、離乳食拒否」

①咽頭軟化症があり気管切開を行った12ヶ月のお子さんを担当しています。人工鼻を使用した状態で哺乳100ml程度飲めていましたが、最近、急に一口も飲まなくなりました。8ヶ月頃より離乳食も開始していましたが、全く受けつけません。発達はお座りが少しできるようになりました。また、臥位やラック座位では、常に四肢をばたばた床に打ちつけるような行動がみられ、覚醒している間中動かしています。児は機嫌が良く笑顔でいることが多く、あまり機嫌を悪くしてぐずる、泣くなどがありません。母親がほほ笑みかけるととても笑顔になりますが、視線があまり合わないのが気になります。全体像から考えられる児の発達や哺乳の進め方はどのようなことでしょうか? ②自閉傾向の児の離乳食の進み具合に特徴があるように思います。「食材がやや固形になる離乳食の後期でも、ペースト状を好み次の段階に進まない」、「前歯で噛み切る行為が2-3歳にならないとできない」、「咀嚼が苦手」、「食事の内容に拡がりがない」、「食事に興味がない」、「いろいろなスプーンを試すが、どれも受けつけず、母の手からしか食べない」などです。また多くの児で運動発達の遅れもみられます。このような児に対し何か良い支援方法はありますでしょうか?現在は、嚥下の評価、口腔内過敏であれば口腔内マッサージを行い、食事・回数の工夫など母親と一緒に考えていますがいかがでしょうか?

A1:「自閉症、変化、長期支援」

①発達の経過や行動を考慮すると、お子さんの全体像は知的障害(軽度-中等度)+自閉症スペクトラム障害(程度は不明)だと思います。急に哺乳を受けつけなくなったこと、離乳食を受けつけないことは摂食・嚥下の機能的な問題ではなく、自閉症スペクトラム障害の影響だと思われます。急に哺乳しなくなった理由としては、哺乳中に誤嚥しそうになった、ミルクの温度が合わないことに気がついたなど、何か嫌なこと(感覚)があったという可能性も考えられます。また離乳食も少しずつ継続しているようでしたら、離乳食でお好みの味を覚えたなどもきっかけになると思います。今後としては、急に哺乳し始める、離乳食を食べ始める、そしてまた急に飲まなくなる、食べなくなるということを繰り返していくと思います。哺乳は少しずつ減らしていきながら児が好む味や食感を探しながら離乳食を進めていくのが良いと思います。ちなみに自閉症スペクトラ障害のお子さんは乳児期では視線が合い微笑返しがみられることはあります。徐々に視線が合わないことが顕著になってきます。②自閉傾向のお子さんの食事の特徴をよくつかまれていると思います。食材の固形化や噛みちぎりを嫌がるのは口腔内の過敏性からきます。咀嚼の苦手さは口腔内過敏性も影響していますし、口腔運動の拙劣さもあります。摂食・嚥下の機能的な問題がない場合は、日常の食事は児が好むやり方を発見・周到し(好きな食材・食器・温度・時間・手づかみでも)、児に負担をかけないように毎日1品いろいろなものを試す感じなります。口腔内過敏性に対するマッサージのほか、全身の感覚過敏性も局所過敏に影響してきますので、特に手のひらなどの過敏性も評価・対応します。自閉傾向の児の摂食・嚥下は常に変化しますので(原因がわからないことが多い)、栄養より量確保優先で長い目で経過を追うつもりでご家族に寄り添ってください。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「哺乳、ピエール・ロバン症候群」

ピエール・ロバン症候群の1ヶ月の赤ちゃんを担当していますが、哺乳が進みません。症状は、小顎症、口蓋裂、舌根沈下による喘鳴があります。咽頭・喉頭軟化症はありません。人工呼吸器の装着はなく、哺乳中のSpO2は保たれており、啼泣時などでも低下することはなく安定しています。ホッツ床を装着し、嚥下自体は上手に出来ますが、哺乳中息継ぎが上手に出来ず、数回嚥下をするとのけ反り乳首を外そうとします。これを何回か続けていると10分程度で、哺乳を嫌がり寝てしまいます。経口哺乳量は10ml程度で、残りは経鼻菅からの注入になります。哺乳支援として、最初に口蓋裂用乳首のP型(ピジョン)の乳首を使用していましたが、舌の動きを促進するために、nuk(nuk)の乳首に変更しました。吸啜は比較的強く出来ていますが、上手く哺乳しているような時でも、哺乳量は思わしくありません。ミルクの口角からのこぼれはなく、嚥下時の咽頭部の残留音はありません。また、喘鳴時の姿勢では、側臥位をとるように指導していますが、他に良い姿勢はありますでしょうか?喘鳴は成長するにつれて改善することが多いでしょうか?この赤ちゃんの哺乳支援に必要な評価や方法、成長を待つことで期待できる変化などありますでしょうか?

A2:「哺乳評価、乳首と姿勢の選択、予後」

①吸啜の評価と支援・・・吸啜反射は出ており圧も強めですが、口蓋裂でホッツ床を装着しても口腔内のどこかに隙間ができている、小顎症・舌根沈下により舌尖が歯茎まで出てこない、の要因によって有効な吸綴圧・舌の蠕動運動が得られていないと思われます。そのため、口角からミルクがこぼれるほど口腔内にミルクが流入しておらず、吸啜頻度に比べ吸綴量は少ないと思います。→→→P型やnukなどを空で吸啜してもらい、乳首の中を覗き込み、乳首と口腔内の密着具合・舌の位置を評価します。口腔内の隙間が少なく、舌尖が歯茎近くまで出てきやすく、吸啜リズムが規則的な乳首を選択します。嚥下が良好なので、一般乳首も含めてスペシャルニーズフィーダー(旧ハーバーマン←P型よりやや小さく吸啜補助ができるので良い)など乳首孔が大きめなものが有効かもしれません。②嚥下の評価と支援・・・哺乳中のSpO2低下や咽頭部の残留音がなく嚥下は良好です。→→→シリンジで1回嚥下量(0.1ml~)を確認し、選択した乳首を指で軽く押した際の1回吸啜量と同じ程度か少ないかを確認します。③呼吸の評価と支援・・・小顎症・舌根沈下による喘鳴があり咽頭狭窄の可能性はありますが、常時ではなく啼泣時のSpO2低下もないため呼吸は比較的安定していると思います。→→→喘鳴時の側臥位は有効です。その際は児はフラットにし、やや腹臥位傾向で頭部を上げないことで舌根の沈下はより軽減されます。④吸啜・嚥下・呼吸の協調性の評価と支援・・・哺乳時に舌根が沈下しやすく、息継ぎがしにくくなっていると考えられます。体調や日によって哺乳が児にとってやや苦痛となっている時もあると思います。→→→仰臥位に近い姿勢での哺乳はより舌根沈下が顕著になります。一番有効かと考えられる哺乳方法は、スペシャルニーズフィーダーを用い、最初の3-5分間は顎を支持した抱っこでの前傾位で舌尖をより前に出し、咽頭が少しでも開いた状態で、吸綴練習を主な目的とした哺乳を行います。児が疲れる前に、児の抱っこ姿勢をお座りのような垂直位にし、スペシャルニーズフィーダーの乳首を介助者が押し吸啜補助をしながら哺乳を継続します。児が成長し、開口がより大きくできるようになれば垂直位姿勢もしくは側臥位姿勢での直母も有効かと思います。※哺乳は児が苦痛な経験をしない範囲で継続していきます。自立哺乳が退院等の目標になっている場合は、シリンジ嚥下やカップフィーディグでの嚥下量増加も1つの考え方になります。喘鳴は成長にともない咽頭腔が太くなるので改善していく可能性は高いです(1歳位から)。ただ、成長するにつれ啼泣力が強くなると啼泣時の舌根沈下が顕著になり、喘鳴やSpO2低下がより認めることもあります。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「仮死、嚥下反射、アイシング」

仮死状態で出生した脳性麻痺リスクの1ヶ月の赤ちゃんを担当しています。嚥下反射をまったく認めず、探索反射や吸綴反射もみられません。哺乳支援として綿棒で口腔内マッサージを行っていますが、各反射の反応はありません。児に対して、嚥下反射を促すようなアイシングを試みても良いでしょうか?試みる場合の方法や注意点について教えてください。

追加Q:「胃食道逆流、ポジショニング」

この赤ちゃんは人工呼吸器から離脱できましたが、少し前に肺炎を起こしています。普段は持続吸引が必要で、頻回な胃食道逆流も指摘されており、ミルクが口腔内に貯留していることもあります。頻回な胃食道逆流を認める児の場合、腹臥位管理が良いとの知見を知り、主に腹臥位を保持し、側臥位や時折座位なども取り入れながらポジショニングを行っていますが、このような姿勢管理で良いでしょうか?

A3:「球麻痺、評価・支援の考え方」

哺乳支援をされようとしているなので人工呼吸器管理をされていない赤ちゃんと察します。嚥下反射が出現しておらず、吸綴反射もみられないため、延髄の運動核の障害(球麻痺)だと思われます。アイシングを試みるのは良いです。赤ちゃんでは口唇周囲や喉頭部をアイシングしますが、回数や時間は定まっていません。1回目のアイシングで児のバイタルや反応を慎重に観察し、著しい変化がなければ継続していきます。1セット目(初日の試み)のアイシングで口腔・嚥下反射にわずかな変化がみられる場合は継続する意味がありますが、わずかな反応もみられなければ、継続する効果は乏しいと思われます。いわゆる先天性の球麻痺は大きな変化は望めないことが多いため、その場合は1ヶ月ごとにアイシング評価をしていくことをお勧めします。普段の赤ちゃんに唾液の誤嚥を認めない場合は、唾液の嚥下もしくは声帯の息止めができている可能性があるため、シリンジによる直接嚥下練習も選択肢になると思います。唾液の誤嚥を認める場合(微熱が続く、常に炎症反応値が高い、誤嚥性肺炎像を認めるなど)、もしくは口腔に持続吸引が必要な場合は、アイシングで嚥下になんらかの反応が出てきた場合も、誤嚥しない完全な嚥下反射がみられるようになる可能性は低いかもしれません。その場合は、気管切開後の嚥下練習が児の負担が少なく良いと思います。

追加A:「哺乳中後、右側臥位、腹臥位」

唾液や逆流したミルクの誤嚥性肺炎の疑い(特に右上葉中心の炎症)もありますので、完全な嚥下反射の出現は望めないかもしれませんが、赤ちゃんに負担がかからないことを気をつけながらあきらめずに支援してみてください。唾液の誤嚥を軽減するには①ベッド平らでの腹臥位または側臥位(下側の脇下に5-10cm厚のタオルを置き、若干頭を下げた状態で顔はやや下向き←唾液が喉頭に向かわず、すべてが口腔外に垂れてくる姿勢)ですが、胃食道逆流を軽減するには、②上体拳上位(30°以上)での腹臥位または右側臥位になります。哺乳中後(ミルク注入中と後1時間)は②の姿勢、その後は①の姿勢というパターンになります。肺炎既往を考えると唾液を誤嚥しやすい背臥位をとる理由はないと思いますが、頭部や体幹の変形が目立ってきそうであれば、持続吸引でのベッド平らでの背臥位もとる必要があるかもしれません。あきらかに胃食道逆流があるので本来は検査はしなくて良いと思いますが、どのくらいで消化されているのか(上体拳上をどの程度の時間とるのか)知るには胃食道逆流検査は有効かと思います。[理学療法士 木原秀樹]

Q4:「哺乳支援、開始基準、観察」

言語聴覚士です。哺乳支援に関して手探り状態です。早産児で修正34週が過ぎ、哺乳を開始できそうと判断できたとしても、①どのくらいから、どのくらいのペースで哺乳を進めていって良いのか、②飲み終わって30分後の変化まで見られないけどどこまで見たらいいのか、③哺乳練習中のモニター観察は何を基準にどのように判断するのか、など教えてください。

A4:「哺乳練習、哺乳量・時間」

①早産児、低出生体重児で呼吸状態も落ち着いていれば、修正34週頃から哺乳は開始できます。直接授乳が推奨されていますが、赤ちゃんや母親の希望・様子から判断します。児が飲みたいだけ哺乳して大丈夫です。児の病態や治療経歴から判断して病棟基準を作る場合は、最初の1-2日は5分間もしくは10mmまでと区切って良いと思いますが、問題を認めない場合は制限を外します。呼吸疾患・先天異常などがあるようでしたら、哺乳評価を行い、評価上問題がなければ通常哺乳を開始し、問題が見つかれば、哺乳プログラムを作成し、児の負担がかからない範囲で哺乳練習を開始します。②基本看護師さんに状態を見ていただきます。もし30分程度で変化あるならば、嘔吐や誤嚥など胃食道逆流症が主な症状だと思います。③哺乳練習中のモニタリング(含むモニター観察)は心拍、呼吸数、SpO2、顔色、呼吸状態などになります。心拍や呼吸数の急激な上昇または下降、SpO2の下降(90以下)、顔色として蒼白またはチアノーゼ、呼吸状態として咽頭や胸郭の陥没や咽頭部のゼコツキなどを確認します。 モニタリングで変化が見られる前までが児の負担がかからない哺乳練習範囲(哺乳量・時間)です。[理学療法士 木原秀樹]

Q5:「哺乳、嘔吐」

生後1ヶ月の赤ちゃんで原因不明の哺乳中~後の嘔吐があります。生後数週間での肺炎既往があります。探索・吸綴・嚥下反射は目立った問題なく、哺乳量はやや少なめです。母親の授乳中の抱き方にぎこちなさがあります。下剤の投薬で嘔吐は減ってきています。どのような評価や支援をすれば良いでしょうか?

A5:「胃食道逆流、縦抱き、げっぷ」

嘔吐の一因となりやすい授乳中の赤ちゃんの反り返り(筋緊張亢進)の有無、抱き方(きつく抱いている、姿勢が不安定、頭が低い)、吸綴での空気嚥下の有無、むせの有無、酸素飽和度(SpO2)や心拍の変化を評価します。嚥下に問題がないようでしたら、哺乳中後の胃食道逆流による誤嚥性肺炎だったことも考えられます。授乳中の安定した縦抱き、縦抱きでの頻回なげっぷ、少量ずつの授乳、授乳後の30度以上の上体拳上位保持が主な支援になります。一時的な哺乳瓶でのトロミ付哺乳、空気嚥下量が多い場合は胃チューブ常駐でシリンジでの空気抜きも検討します。[理学療法士 木原秀樹]

Q6:「18トリソミー、哺乳困難」

修正41週の18トリソミーの男児で、最初は哺乳瓶20mlくらいまで飲んでいました。じきに痙攣が増えフェノバールを使用したり、嘔吐したりするようになり、哺乳は一時中断となりました。その後、哺乳が再開となりましたが、ほとんど飲めない状態となり、言語聴覚士が再度評価しました。数回吸啜はありますが、嚥下しきれず口から漏れ、五分もしないうちに鼻閉音があり、SpO2低下もみられます。咽頭の湿性音も認められ、誤嚥リスクも考えられますが、今のところ肺炎はありません。唾液分泌は多くなく、口腔からの流涎もありません。舌根沈下(口蓋垂が見えない)や鼻咽腔閉鎖不全がありそうです。このお子さんが、なぜ哺乳困難となったのか、機能的なものなのか、器質的なものなのか、評価方法や支援方法について教えてください。

A6:「哺乳負荷、楽しんで哺乳」

観察・評価された内容からすると、①吸啜・・・筋緊張低下、痙攣およびフェノバール服薬での覚醒レベルの低下による吸啜圧の低下、吸綴リズム緩慢、②嚥下・・・鼻咽腔閉鎖不全、舌根沈下による嚥下機能不全、③吸啜と嚥下リズム・・・嚥下量より吸啜量(もしくは乳首から流れてくるミルク量)が多いことによる吸啜と嚥下の協調性が乱れ、にまとめられます。他に必要な観察・評価は、①吸啜・・・口蓋裂および小顎症の有無、心疾患の有無による哺乳負荷への影響(疲労感)、空乳首を吸啜させたときの口腔内の密着具合の観察、②嚥下・・・シリンジからのミルク滴下による嚥下遅延の有無の観察、1回嚥下量の評価、③吸啜と嚥下リズム・・・吸啜回数と嚥下回数の比率の評価になります。以上の観察・評価はすでに行われているかもしれませんが、18トリソミーのお子さんの哺乳は、一般的に嚥下機能不全(口腔、鼻咽腔、咽頭での構造的な影響)を有し、吸綴負荷が高く(すぐ疲れてしまう)、無理をすると吸啜と嚥下の協調性が乱れて誤嚥するという状況が多いです。ですので、スタッフ間で、「基本的に哺乳全量は飲めない」、「児に負荷をかけず楽しんで哺乳をしてもらうことが目標」という認識が必要になります。おそらく、このお子さんの哺乳支援は、1回嚥下量が少なく、嚥下量より吸啜量が多い場合は乳孔が小さい乳首の選択、児への負荷を少なくする(SpO2低下しない範囲、疲労度の経験)ために量より時間(5分程度)での制限になると思います。哺乳中後のSpO2回復が速やか、肺炎履歴がない場合は、綿棒嚥下練習より、直接哺乳練習で良いと思います。あとは哺乳後の上体拳上または腹臥位のポジショニングも検討していきます。[理学療法士 木原秀樹]

Q7:「哺乳時むせ、陥没呼吸」

出産時の問題はなかった満期産児で、哺乳時にチアノーゼがありNICUに入院しました。哺乳時にむせがみられることが多く、哺乳の評価依頼がありました。耳鼻科の診察も入り、結果は特に問題はないとのことでした。哺乳評価の結果としては、①吸啜反射、探索反射問題なし、②吸啜窩はやや浅め、③口腔・咽頭内の唾液の貯留なし、咽頭部の貯留音なし、④1回嚥下はスムーズで、残留音なし、⑤吸啜:嚥下:呼吸比=2:1:3、⑥2回連続嚥下のときにむせやすい、⑦とろみ付きのミルクにすると5回連続嚥下でむせやすい、そのときSpO2は80代後半まで低下、HRは上昇するが、回復しやすい、⑧チアノーゼ症状はないが、むせた後は陥没呼吸がみられ、20ml哺乳すると陥没呼吸は増強しやすい、⑨呼吸は浅く、啼泣時には嗄声や漏斗胸様の陥没がみられ、哺乳最後の方では陥没は増強しやすく、呼吸が追い付かない様子、⑩四肢の筋緊張の異常性、過敏性などなし、⑪自発運動はスムーズな動きがみられる。評価後、夕方の哺乳時にSpO2が回復せず、誤嚥による無気肺が生じ、nasal CPAPが開始されました。嚥下自体は問題はないと判断しましたが、嚥下後の息継ぎの呼吸に問題があると思いました。耳鼻科では、気管支ファイバーでの観察は行われず、視診で確認できる範囲で評価されたようです。陥没呼吸がある場合、哺乳はどのように進めた方が良かったのでしょうか?むせがある場合、とろみ付きミルクは無気肺の原因になるのでしょうか?高口蓋または吸啜窩が浅い場合、哺乳に問題は生じますか?

A7:「気管・気管支軟化症、喉頭軟化症、呼吸疲労」

この赤ちゃんは、気管・気管支軟化症、喉頭軟化症が疑われます。気管・気管支軟化症では呼気時狭窄・啼泣時喘鳴、喉頭軟化症では吸気時喘鳴を認めやすいです。普段の呼吸で喘鳴を認めず、啼泣時に胸部の強い陥没を認める場合は、気管・気管支軟化症の疑いが高いと思われます。陥没呼吸を認める場合も、即哺乳中止にはなりません。またむせがある場合はかえって誤嚥のリスクは少ないので、とろみ付きミルクが無気肺の原因に直接結びつくことは考えにくいです。嚥下自体に問題ないと評価された場合は、咽頭部残留を認めやすい喉頭軟化症の可能性は低く、気管・気管支軟化症を疑う気管支ファイバーの検査は必須かと思われます。哺乳評価としては、1回嚥下量の評価を行い、0.1-0.3mlを1回で嚥下できない場合(通常、満期産児では1回嚥下量0.3ml)、吸啜:嚥下:呼吸比=2:1:3では、2回吸啜で咽頭内に流入してきたミルクを1回嚥下でクリアできず、3回呼吸中に誤嚥するリスクがあります。ただむせ機能があるので、ある程度ミルクを喀出できますが、むせでミルクを喀出できなかった分は気管に流入し、誤嚥する場合があります。哺乳前にその児が吸う乳首の孔の大きさを確認することも大事で、哺乳瓶を逆さにして、孔から絶え間なくミルクが垂れてくる場合は、咽頭内のミルク流入量がかなり多くなり、嚥下処理できないことがあります。喉頭軟化症や気管・気管支軟化症を疑う児の場合は、乳首の孔の細いタイプを選択し、呼吸苦から哺乳時疲労しやすいので、ミルク量でなく、呼吸状態を確認しながら呼吸疲労が起きない時間で哺乳を区切ります。哺乳中に呼吸苦が表われてくると、吸綴:嚥下:呼吸比率も変化してきます。高口蓋、吸啜窩が浅い点では、吸綴時の口腔内陰圧が得られにくいので、ミルクの流入量が少なくなり、哺乳量は増えませんが、かえって誤嚥リスクも減ります。[理学療法士 木原秀樹]

Q8:「早産児、指示哺乳」

当院では修正34週頃から哺乳を始めています。しかし、この時期は覚醒の浅い児もおり、哺乳中に寝てしまう、疲れてしまうなどがみられます。哺乳時間は20分までが望ましいといわれていますが、児の体重を増やさないといけないこともあり、医師からの指示哺乳量がまかなえず、30~40分かけて飲ませるように頑張らせてしまっていることがあります。覚醒の浅い児や、指示哺乳量が20分以上かかってしまう児などの対策があればご教示いただけないでしょうか?

A8:「哺乳時間、経管栄養」

医師の哺乳指示は哺乳時間でなく哺乳量になりますので、30-40分かけて指示量を飲ませることはよくあることだと思います。ただ、児の負担(疲労感)や哺乳を行う看護師の負担感からすれば、あまりよくないと思います。一番良い方法は、哺乳回数を増やす、哺乳時間を決めず啼泣時に飲みたいだけ飲ませるです。しかし、それも病院業務からすると非効率であり、それが実施できる病院は少ないです。児にとって満足感が得られ負担感が少ないのは、20分で哺乳できなかった分は経管栄養でまかなうという方法になります。修正34週-36週から指示哺乳量を全量哺乳することは困難な児は多いです。しかし、1-2週間経つと哺乳量は一気に増えてきますので、あまり無理して経口哺乳させる必要はないです。哺乳は楽しく、落ち着く時間であることが優先になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q9:「乳頭混乱、母乳実感」

乳頭混乱や低出生体重児では母乳実感が良いと聞いたことがありますが、その理由はなんでしょうか?

A9:「乳首の特徴、口腔内密着」

乳頭混乱が起きている赤ちゃんは母親のおっぱい、もしくは哺乳瓶の乳首のどちらかを好み、どちらかを極端に嫌がります。ピジョン株式会社の母乳実感は乳首の特徴として裾が富士山型のように広く、おっぱいの形や弾力を似せた作りになっていますので、混乱が起きにくいと言われています。また低出生体重児は、口腔内の脂肪が少ないため、哺乳瓶の乳首が口腔内に密着し、ミルクを圧出しやすくなるための陰圧を生み出すためには、母乳実感のような乳首の裾が広く大きい方が口腔内に密着しやすくなります。[理学療法士 木原秀樹]

Q10:「哺乳拒否、覚醒レベル、哺乳姿勢」

筋緊張低下の赤ちゃんで落ち着かず哺乳に苦労している児がいます。哺乳はしっかりと覚醒した状態で飲むことが良いと思いますが、覚醒レベル(state)が低い状態でないと嫌がって乳首を押し出したりして哺乳が続きません。stateが低い状態でも哺乳をして良いでしょうか?また、筋緊張低下の児は座位のような垂直姿勢で哺乳することが良いと聞いたことがありますが、その理由はなんでしょうか?

A10:「小まめな哺乳、哺乳中state、リラックスした姿勢」

筋緊張低下の赤ちゃんに限らず、落ち着きのない児は覚醒レベル(state)が低いほうが、無意識に反射として哺乳するため、哺乳を嫌がらずに哺乳量が多くなりやすいです。バイタルサインへの影響がなければ、stateの低い状態での哺乳は大丈夫です。哺乳中に目と目を合わせて楽しく飲むときもあれば、安心してウトウトしてくることもあり、哺乳中のstateは一定ではなく様々です。時期が経つと赤ちゃんも少しずつ落ち着いてきますので、しばらくは空腹が進み落ち着かなくなる前に小まめに哺乳する、ウトウトしている間に哺乳をすると良いです。また、哺乳姿勢として座位のような垂直姿勢を保持することで、stateを上げる、またstateが上がることで筋緊張が高まる、という狙いがあります。児が垂直姿勢で哺乳をする場面は、直接授乳の一部の方法でありますが、一般的な哺乳姿勢ではありません。stateを上げて哺乳を行いたい場合の一例ではありますが、その児のstateが上がる刺激・姿勢を探し、stateを上げてから、リラックスした姿勢で哺乳を行うことが望ましいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q11:「嚥下反射、喉頭刺激」

嚥下反射の促進の方法として喉頭を外部から刺激するという方法があるようですが、どのように刺激すれば良いか教えてください。

A11:「間接的哺乳練習、唾液嚥下、少量嚥下」

嚥下反射の促進の方法として、喉頭を外部から刺激する方法は間接的哺乳練習になります。嚥下に合わせて喉頭を介助者の指先で押し上げるという方法になりますが、それほど効果が高い方法ではありません。嚥下反射の促進は直接的哺乳練習のほうが効果が高いため、綿棒吸啜にともなう唾液嚥下、シリンジからの少量(0.1ml~)嚥下などをおすすめします。喉頭の刺激は、ある程度哺乳が可能な覚醒レベル(state)の低い赤ちゃんの哺乳時の吸啜・嚥下リズムを促す方法としては有効な実感があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q12:「離乳食、咽頭反射」

離乳食で、とろみ様から少し粒が混ざった食事をするようになってきた児がいます。ただ、咽頭反射がよく見られるようになり、嘔吐しそうになります。出生後、心臓手術の経緯があります。挿管による声帯麻痺の影響や極低出生による発達の未熟性などに原因がありますでしょうか?また、どのような評価・検査をすれば良いでしょうか?

A12:「麻痺、口腔発達」

挿管などの反回神経麻痺による声帯の麻痺がある場合は、啼泣時など大きな発声で嗄声になります。嗄声が確認される場合は、耳鼻科に咽頭の内視鏡検査を打診します。啼泣時の声量に問題がない場合は、球麻痺による嚥下障害、口腔発達の未熟性などが考えられます。球麻痺の場合は、喉頭の拳上不全や唾液も含めた咽頭残留音が確認されますので、わかりやすいと思います。この児の場合はそのような様子は見られないようですので、口腔発達の未熟性の影響があるかと考えられます。つまり口腔発達がまだ離乳初期段階で、主に舌が前後のみ動き咀嚼するため、食物を咽頭に運ぶだけの機能しか持たず、少量固形(粒)を処理できず、嚥下時に咽頭反射(むせ)が出現するということがよくあります。先天性心疾患の児は個人差はありますが、精神運動発達の遅れを示す場合が多く、全体の発達の程度に合わせて口腔発達も進みます。月齢が7-8ヶ月でも、発達が5-6ヶ月レベルであれば口腔発達も離乳初期段階という場合がほとんどです。舌が上下に動き、粒を舌と上顎で押しつぶせる口腔発達(離乳中期段階)になりますと、スムースに嚥下できるようになります。離乳初期段階では咀嚼時に舌先が口唇から出たり入ったりします。離乳中期段階では、咀嚼時に舌先が口唇から出ることはなく、上下の口唇は薄くなります。綿棒を口に含んだときに綿棒のつぶれ方など、口唇や舌の動きを観察し、離乳期の発達段階を評価します。[理学療法士 木原秀樹]

Q13:「哺乳中、SpO2低下、吸気狭窄音」

現在36週で、40mlの哺乳をしている赤ちゃんがいます。哺乳開始時は、1回嚥下でも剣状突起部の陥没呼吸がありました。非常に飲む意欲はありますが、哺乳をしていると、酸素飽和度(SpO2) が97から89~92まで低下し、少し休むと96くらいに戻ります。哺乳中の吸気に高い狭窄音があり、咽頭部の陥没もあります。嚥下音はきれいで、咽頭部に残留音もありません。呼吸がやや苦しそうな原因としては、どう考えれば良いでしょうか?

A13:「吸気性喘鳴、咽頭狭窄」

この児の場合は、吸気性喘鳴を認めますので、気道狭窄(咽頭狭窄・喉頭狭窄・気管狭窄など)が考えられます。ある程度の哺乳ができ、陥没の程度の改善傾向を認めていますので、気道狭窄のうち咽頭狭窄と考えられます。その影響で、哺乳時の息継ぎでは充分な吸気量が得られず、連続哺乳で酸素量不足となり、SpO2が低下してきますが、哺乳を一旦止め、休憩すると吸気量が回復してきます。咽頭狭窄は個人差もありますが、改善傾向を認めるため、現在行っているように休みながら哺乳を継続し、経過をみます。[理学療法士 木原秀樹]

Q14:「乳児、水分、ムセ」

7-10ヵ月の乳児で、哺乳ではムセはみられないのですが、哺乳以外でのお茶や牛乳の水分摂取時にムセがみられます。出生時、心臓の手術で挿管していた児、特に既往歴はない低出生体重児、満期産で特に発達は遅れていませんがややこだわりがある児、各児でそのようなムセがみられます。どの児も耳鼻科では特に所見はなかったです。これはどのような状況で、どのような原因が考えられますか?

A14:「離乳期、口腔発達、未熟」

離乳期の水分のムセは、どの児もそれなりにあります。固形物でのムセの場合は、離乳食の形態と口腔発達が合わず、咀嚼が不充分でムセやすいことがあります。水分の場合は、水分を取り込む量が多い場合に、1回嚥下量の許容範囲を超えるとムセます。また新生児の入院時期に長期挿管していた場合は、喉頭浮腫や軟化症が残存し、喉頭の動きの不全でムセやすくなりますが、今回のご相談のお子さんたちは、そのような症状がありませんので、もし、ムセが通常より多いと感じるのでしたら、口腔発達の未熟が考えられます。口唇での水分の取り込みが発達していないと、一気に水分を摂取しムセやすくなります。コップの縁の口唇の閉じ方が上手でない場合は、スプーンで口唇の閉じ方を練習していきます。先天性心疾患や発達障がい疑いのお子さんは乳児期後半から発達の遅れを認めるようになり、発達の遅れは口腔発達の遅れと関係していますので、口腔発達の評価を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q15:「早産児、哺乳、無呼吸」

修正35週の早産児の哺乳で、哺乳時に呼吸を入れるタイミングが合わず、摂取したミルクを必死に息を止めて嚥下し、ミルクが流入しないように哺乳瓶を傾けないと呼吸が入らず、呼吸をしても頻呼吸になる状況でした。当初から5~10mm程度の哺乳にとどめていましたが、徐々に無呼吸が続くようになり、哺乳を一旦止めることになりました。特に基礎疾患はありません。哺乳と呼吸、頻呼吸と無呼吸を起こす関係性について教えてください。

A15:「呼吸補助、吸綴:嚥下:呼吸の協調性、不全」

早産児は頻呼吸が継続すると呼吸筋が疲労し、呼吸が疲れたからと容易に無呼吸を発生します。体内の酸素量が不足する場合は呼吸数を上げる(頻呼吸)ことで酸素量を増やそうとします。その分疲労しやすくなり、哺乳意欲の低下も認め、そのような児は体重増加も芳しくありません。哺乳時に限らず頻呼吸や無呼吸を認める場合は、軽度の呼吸障害の存在が疑われますので、医師に相談し、呼吸補助(酸素投与やnasal-DPAPなど)の導入での哺乳が必要です。哺乳時のみの頻呼吸の場合は、嚥下時の一時呼吸停止の延長による酸素量低下が要因ですので、吸綴・嚥下・呼吸の協調性不全として、極少量嚥下を継続しながら哺乳発達の成熟を待ちます。[理学療法士 木原秀樹]

Q16:「幼児、吸綴、ムセ」

2歳になる幼児の摂食で、主な舌の動きは前後で、咀嚼時は舌を口蓋に押し当てる音が鳴り、哺乳時の吸綴の舌の動きに似ている所見がみられます。柔らかい固形が少しでも入るとムセてしまいます。このような時期・所見での対応はどのようなことがありまか?

A16:「口腔発達、過敏、未熟」

基本的な口腔発達として、指しゃぶり、手しゃぶり、遊具食べ遊びなどの発達経過がみられない場合は、口唇や舌などを使った咀嚼の発達が成熟しません。また、口腔内・周囲の過敏を認める場合も咀嚼の発達が進まず、ムセも起こりやすくなります。過敏性を認める場合は、口腔周囲から脱感作を行います。吸綴様の舌の動きから発達を促すために、箸で半固形物を左右の歯列の上に食べ物をのせ、舌の左右の動きを引き出す、やや強引な方法になりますが、飲み込みにくい大きめのより固く噛まないと飲み込めないような食物を与えるなどの対応があります。[理学療法士 木原秀樹]

Q17:「幼児、摂食拒否」

2歳前の幼児で、食物を口に入れることを嫌がり、摂食が進みません。嚥下は問題ありません。スプーンを持ち、食べる真似はできるのですが、食物を口に入れることは絶対にしません。無理に食物を入れようとしても、怒って、暴れて手を振りほどき逃げてしまいます。様々な食材、スプーンの形状など工夫をしてきましたが、やり切った感があります。他にできること、また、このような児は今後経口摂取可能になるのか教えてください。

A17:「環境設定、時間経過」

ダウン症のお子さんや発達障がいのお子さんで摂食拒否を示すことが多いです。このような児は、時間が経つと急に食べ始める時があります。食卓は毎日いっしょにして、あるとき特定の食物をじっと見て興味を持ち、少し与えてみると食べ始める、子どもたちが集団で食事をしているような場面で、真似をしようとして食べ始める、というようなきっかけがきます。摂食拒否の児の場合は、家族が納得するような可能な対応はしつつも、環境設定+時間経過を見据えて、あせらず、いつか食べ始めることを家族に理解してもらい、児にも食事を強制せず、楽しい雰囲気を大切にします。[理学療法士 木原秀樹]

Q18:「哺乳、唾液貯留、頸部過伸展」

やや活動性が低く、自発運動は少ない赤ちゃんの哺乳評価依頼がありました。ミルクが飲めないため、経菅栄養です。嚥下評価では、0.3~0.5ml程度のミルクをシリンジで口腔内に入れると、嚥下音は聴取され、ムセもみられませんが、頚部を過伸展させ苦しそうにします。吸引するとミルク交じりの唾液が多量にみられます。普段も唾液が貯留すると酸素飽和度(SpO2)低下、頚部過伸展、吸引にて多量の唾液を認めます。咽頭部や気管音の聴診はクリアで、誤嚥しているような様子はなく、肺炎経歴もありません。呼吸状態はルームエア(酸素投与無し)で過ごせています。気管支ファイバー検査では、咽頭部狭窄や喉頭軟化症など認めていません。特に目立った疾患はみられていない状況ですが、哺乳は進んでいません。どのように考察し、支援を行えば良いでしょうか?

A18:「梨状陥凹貯留、少量嚥下、側臥位哺乳」

評価所見から嚥下機能不全を認めます。1回嚥下量が少なく、嚥下遅延(嚥下物に対する嚥下反射の感受性が低い)があります。ミルクが咽頭部に流入してきたときに、嚥下しきれないミルクは声帯を閉じるなど対処で誤嚥はしませんが、梨状陥凹にミルクが貯留しやすいため、呼吸困難で苦しくなり、頸部が伸展したり、SpO2が低下します。唾液も咽頭壁での感受性が低く、梨状陥凹に唾液が貯留しやすく、呼吸が苦しくなります。咽頭部狭窄を認める場合は吸気性喘鳴、喉頭軟化症を認める場合は呼気性喘鳴が聴取できます。しかし、聴診上クリアで、気管支ファイバー検査上も所見を認めません。ただ、低活動=低緊張の児の場合は、未症状の吸気性喘鳴、喉頭軟化症があり、それが1回嚥下量の少ない要因となっている可能性があります。月齢と共に活動性や覚醒が高まると、吸気性喘鳴、喉頭軟化症が目立ち始め、啼泣時に喘鳴を認めるようになる場合があります。いずれにしても低流量での哺乳瓶哺乳、シリンジから0.1~0.2mlの直接嚥下、看護者の膝上での側臥位哺乳(咽頭部にミルクが貯留しにくい姿勢)で支援を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q19:「哺乳、経口哺乳、退院」

当院では、NICU入院中の赤ちゃんに対して、哺乳時の吸綴:嚥下:呼吸の協調性がまだ未熟であったり、哺乳中に無呼吸が生じて酸素飽和度(SpO2)が低下する場合も、経口哺乳ができないと栄養が取れないため、自宅退院に向けて頑張って哺乳を行うことが多いです。このような所見を認める児に対して、リハビリテーションスタッフによる哺乳支援は必要でしょうか?

A19:「リハスタッフ、評価、リスク・予後」

哺乳時の吸綴:嚥下:呼吸の協調性不良による一時的なSpO2低下などを認める児に対して、リハビリテーションスタッフによる直接的な哺乳支援は必要ありませんが、評価を実施することは有用です。評価実施により、①誤嚥リスクはあるか、②SpO2が低下しないプロトコールの作成(哺乳瓶の選択、哺乳回数・時間の目安など)、③どの程度で経口哺乳ができそうかなどを医師・看護師に伝えます。まだ哺乳時の協調性が不良な時期は修正33週前後に相当し、協調性が成熟してくる時期は修正36-38週頃ですので、評価した児が修正36週頃で協調不良を認めるようであれば、あと3-4週間は成熟までにかかります、と予測を伝えることができます(退院予定日に間に合わないのであれば、経管栄養の指導も併用する)。赤ちゃんの哺乳の安全性・リスクについて、できるだけ負担が少ない(家族にとっても授乳時間が楽しいと思えるような)哺乳方法について、哺乳の予後を提示する役割が大きいです。[理学療法士 木原秀樹]

Q20:「哺乳後、胃食道逆流症、体位」

早産・超低出生体重児で産まれ、まもなく修正45週になる児を担当しています。胃食道逆流症の所見があり、肺炎予防のためにARミルク(胃食道逆流症用ミルク:増粘剤を配合してトロミをつけたミルク)を哺乳しています。哺乳後に数分経ってから嘔吐しやすく、嘔吐頻度は日によって異なりますが、哺乳後に背臥位を保持していると吐きやすいようです。そのため哺乳後はコット挙上もしくは側臥位を保持しています。間もなく退院ですが、哺乳後の体位は側臥位が良いでしょうか?

A20:「体位療法、上体挙上位、右側臥位」

胃食道逆流症(GERD)を持つ新生児には、ARミルクの哺乳と体位療法(ポジショニング)の組み合わせが有用です。GERは哺乳中にもみられますが、哺乳後に数分から数十分経ってからみられることのほうが多いです。哺乳後のGERには体位療法の実施が重要ですが、児によって有用な体位が違い、可能であればそれぞれの体位でのGERの症状改善を評価することが必要です。有用な体位は、一般的に上体挙上位(コット挙上など)、右側臥位、腹臥位になります。臨床的には上体挙上位での腹臥位が最も有用ですが、腹臥位は視覚的観察が必要なため、退院に向けてそのような対応が困難な場合は、上体挙上位でのやや腹臥位傾向の右側臥位を保持します。腹臥位傾向にしたほうが顔が下向き傾向になるため、GER時の窒息予防にもなります。体位は最低でも30分保持し、可能であれば1時間は実施します。[理学療法士 木原秀樹]

Q21:「鼻雑音、酸素飽和度低下、退院」

在胎週数32週6日、出生体重2024gで生まれた低出生体重の男児で、修正35週頃から哺乳練習を始めました。普段から覚醒レベル(state)低めで啼泣が少ないです。ビン哺乳の吸気時にラッパを吹いたような鼻雑音が聞かれ、哺乳時以外にも鼻雑音やうなりが多いです。シリンジ用哺乳乳首で練習していくと、徐々に呼吸の協調がとれるようになってきました。修正37週に入りビン哺乳で1回45mlを10分程度で飲めるようになり、経管栄養チューブを抜去しました。しかし、抜去後の哺乳から5吸啜くらいで酸素飽和度(SpO2)が85-88まで低下し、休憩すると回復しますが、哺乳を再開するとSpO2低下を繰り返します。哺乳時に呼吸は止めている様子で、哺乳終了頃にはSpO2が75%あたりまで低下することもあります。ただ、回復は早くすぐに96-99%まで上昇します。休みながら1回15分程度で哺乳ができているので、主治医は休憩しながら飲ませる方法をご家族に指導して退院する方針です。このように1日8回、15分程度の酸素低下する状態が発達影響しないか懸念しています、また、哺乳時にできる工夫や注意点があれば教えていただきたいです。

A21:「鼻咽腔狭窄、経鼻エアウェイ、母父子相互関係」

哺乳時以外にも鼻雑音の所見があるようですので、鼻咽腔狭窄を疑う症例です。stateが低く啼泣が少ないようですが、成長とともに啼泣力が強くなってくると普段からSpO2が低下する可能性もあり、哺乳時以外の酸素低下の所見も確認する必要があります。1日8回、15分程度の酸素低下する状態が発達に影響するかどうかのエビデンスは不明です。ただ、児が哺乳を楽しめないこと、親御さんも哺乳に時間がかかることや酸素低下があることに不安がつきまとい、今後の母父子相互関係の構築や育児に影響を与える可能性があります。できれば嚥下内視鏡(VE)検査実施と退院後の哺乳方針の再評価を望みます。退院に向けて哺乳時にできる工夫としては「経鼻エアウェイ」があり、哺乳ごとに親御さんが短い挿管チューブを児の鼻腔に挿入し、鼻腔を確保して哺乳を行います。成長とともに鼻咽腔狭窄が改善してくれば「経鼻エアウェイ」なしで哺乳できるようになる児も多いです。[理学療法士 木原秀樹]

Q22:「胃食道逆流症、嚥下、胃瘻造設」

在胎28週1日、体重950gで出生した超低出生体重児で、小眼球症、角膜混濁、軟口蓋裂(HOTZ床使用)、胃食道逆流症(GERD)疑いの診断を受けています。明らかなGERDではありませんでしたが、上部〜下部食道の間に停留が多く、嘔吐が頻回です。現在、自宅で生活し1歳3ヶ月となり、離乳食初期の形態で経口練習を行っています。嚥下が食道蠕動を誘発すると聞いたことがあり、GERDは嚥下の未熟さが関連していますでしょうか?軟口蓋裂の影響で嚥下圧の上昇は得られにくいため、軟口蓋裂の手術後にGERDは改善しますでしょうか?現在、経管栄養ですが、医師から胃瘻造設を進められ、母親からどうしたらよいか迷っていると相談を受けました。もし術後GERDが改善するのであれば経管栄養でしばらく様子を見たいと伺いました。母親にどのようにアドバイスするのが良いか教えてください。

A22:「栄養摂取手段、児の負担感」

嚥下反射と食道の蠕動運動は同じ迷走神経の支配下でもありますが、嚥下と食道の蠕動運動は関係ありません。嚥下機能の不全であっても嚥下反射は出現していますので、GERDとの関係性は低いです。軟口蓋裂の手術後のGERD改善の可能性は低いです。GEDRは成長とともに改善してくることがあります。しかし、現在口腔機能が離乳初期レベルで、ペースト状の食物だけでは十分なカロリーや栄養が摂れない場合は、なんらかの栄養獲得手段を検討する必要があります。母親が胃瘻造設を避けたい気持ちはよくわかりますので、エンシュア・リキッドのような栄養剤やミキサー食をしばらく経管栄養で足す手段もあります。経管栄養でもGERDは起きる児はいますので、経管栄養での嚥下造影検査(食道・胃レベルまで)を実施し、GERDが起きにくいか評価します。GERD予防のため胃瘻造設の話が出てくる理由はわかりますし、成長に関連した改善までに数年かかりますので、児にとって負担が少ない(楽しんで栄養摂取できる)栄養摂取手段はどれかかが最終的な考え方になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q23:「カップ授乳、反り返り、飲ませ方」

当院の哺乳はカップ授乳→直母→ビン哺乳の順に進めます。カップ授乳では反り返って嫌がる、上手に飲めない赤ちゃんがいます。カップ授乳(フィーディング)が苦手な児の飲ませ方を教えてください。

A23:「吸啜と嚥下、ムセ、空吸啜」

赤ちゃんは授乳以外に自分の舌を吸うような吸啜がみられます。吸啜と嚥下は連動しており、吸啜が出ないうちに口唇にカップをつけミルクを口腔内に流しこむと、ムセやすく上手に飲めません。口腔内に乳首を含まない空吸啜を引き出すために、探索反射を促します。カップの飲み口の先を児の上口唇や口角に軽く何回かツンツンと当てると、多くの児で開口→舌が出る→吸啜の順に反応が出てきます。空吸啜が出てきたら、カップの飲み口を下唇の方に軽く押し乗せるように置き、上唇が飲み口にかぶさるようにカップをゆっくり傾け、授乳します。[理学療法士 木原秀樹]

Q24:「新生児仮死、癇癪、哺乳困難」

新生児仮死の赤ちゃんで癇癪をおこし、哺乳が困難な時があります。対応方法があれば教えてください。

A24:「覚醒状態、まどろみ、反射的な哺乳」

新生児仮死の赤ちゃんは、癇癪も含め落ち着きなさや触覚の過敏性などの理由で、哺乳が上手でない児が多いです。哺乳が困難な児は、覚醒状態が入眠に近いまどろみのときに行うと、児の意識が隠れて、反射的な哺乳で上手に飲めることがあります。空腹で興奮・啼泣状態になる前に哺乳を行う、抱っこにより覚醒状態を下げてから哺乳を行うように配慮します。[理学療法士 木原秀樹]

Q25:「哺乳練習、呼吸抑制、要因」

哺乳練習を進め、吸啜も向上しある程度の量まで哺乳出来ていた赤ちゃんで、じき呼吸抑制を認め、空乳首でも酸素飽和度(SpO2)が低下するようになってきました。どのような要因がありますか?

A25:「1回嚥下量、評価、成熟」

呼吸抑制の要因は、児が1回に嚥下できる量(1回嚥下量)より吸啜量が多くなってきたためです。哺乳の上達は基本「嚥下」しだいです。哺乳練習では、哺乳量を増やすことも主目的ですが、1回嚥下量を定期的に評価し、練習方法を検討します。児が可能な1回嚥下量に合わせた、もしくは1回嚥下量の成熟を促す哺乳練習を行います。[理学療法士 木原秀樹]

Q26:「ダウン症候群、摂食、姿勢」

這い這いを獲得していないダウン症候群の児は、低緊張の特性により、摂食時の椅子座位で姿勢が崩れやすいです。そのため、抱っこで摂食することもありますが、摂食時の抱っこや椅子の選択について教えてください。

A26:「低緊張、抱っこ、椅子座位」

ダウン症候群のお子さんは、這い這いを獲得せず、座位→立位の発達段階へ移行してしまう場合も多く、そのような場合は、体幹などの低緊張のため、食事中(摂食時)の姿勢は崩れやすくなります。ただ、ダウン症候群のお子さんは、脳性麻痺などの脳機能障がいのお子さんらと違い、頸部の位置や姿勢により、頸部や口腔周囲の筋緊張はさほど影響を受けないため、お子さんが安楽で楽しく食事が摂れる姿勢を優先します。ダウン症候群のお子さんの摂食・嚥下で課題となりやすい点は、①口腔内・周囲の過敏性による摂食拒否、②手掌などの過敏性による掴み食べ困難や食具をすぐ離してしまう、③舌・口唇機能の発達がゆっくりで食形態を変化させにくい(離乳食初期時期の摂食機能から進めない)、④好き嫌いが激しい、などになります。抱っこで食事を与えた方がお子さんの安心感があり、多少過敏性が薄れることがありますので、その場合は抱っこでの食事も良いですが、いずれ、食具を用いて自分で食事を摂るという生活機能を身につける必要があり、その目標に準じて椅子を用います。椅子はテーブルに入りやすいもしくはテーブル付の幼児椅子を選んでも良いですが、食事中すぐに姿勢が崩れる(特に前にずり落ちてくることが多い)場合は、座位保持装置または日常生活用具(訓練いす)であるバンビーナチェア(タカノ株式会社タカノハートワークス)を選択します。お子さんが小さい場合や体幹の筋緊張や筋力の発達が不十分な場合は、シュクレN(株式会社アシスト)、PitⅡ(株式会社きさく工房)、グラビティチェア(クッションチェア)(株式会社シーズ)などを選択します。[理学療法士 木原秀樹]

Q27:「低出生体重児、増粘剤、イレウス」

低出生体重児への増粘剤(とろみ剤)の使用は、腸閉塞(イレウス)発症のリスクがあるとの海外報告を見ました。当院ではミルク100ccに対して増粘剤を0.25g配合していますが、その配合の根拠が不明ですし、このまま増粘剤を使い続けて良いのか不安もあります。

A27:「キサンタンガム、ローカストビーンガム、配合」

日本でも昭和大学から、増粘剤の主成分である増粘多糖類(キサンタンガム)の影響で、糞便性イレウス(便がつまり腸機能不全に陥る)を発症した症例の報告があります。キサンタンガムは でん粉を発酵させて作られています。増粘剤を配合してとろみをつけたミルク(ARミルク)では、ローカストビーンガムという増粘多糖類を主成分としています。ローカストビーンガムは豆由来の多糖類で、キサンタンガムとは逆に便が柔らかくなることがあるようですが、腸閉塞の発症リスクは小さいことが期待できます。ただし、ローカストビーンガムを主成分とした増粘剤は販売されていません。ローカストビーンガムと同じ豆由来の多糖類にはグァーガムがあり、グァーガムを主成分とした増粘剤は多種類販売されています。ARミルクに関するネット上検索(海外)では、「ローカストビーンガムの使用量(有効量)は、調製粉乳ベースの固形分100g当たり固形分で0.3〜1.6g」とあり、ミルク100ccに対する諸計算では、増粘成分は最大0.2gになります。増粘剤の約80%が増粘成分(炭水化物=増粘多糖類)ですので、ミルク100ccに対して増粘剤0.25gの配合は有効量の可能性が高いです。(追加:他報告ではミルク100ccに対して増粘剤1gの目安の報告もあります)[理学療法士 木原秀樹]

Q28:「胃食道逆流症、経口哺乳、移行困難」

著書では胃食道逆流症が、経口哺乳への移行が困難である例に挙げられていますが、なぜでしょうか?経管でのミルク注入時間を1時間程度設けているような児も、経口哺乳への移行が困難でしょうか?

A28:「食道、蠕動運動、停滞」

胃食道逆流症を合併している児は、噴門の弛緩など逆流症の要因にもよりますが、食道の蠕動運動(ミルクを食道から胃に送る働き)が弱い場合もあります。そのため、ミルクが食道に停滞し、哺乳中やその後に嘔吐しやすいと、経口哺乳の移行が困難となります。胃食道逆流症で嘔吐しやすい児は、嘔吐・嘔気経験や酸性の嘔吐物の影響で、口腔内や咽頭が過敏な場合もあります。そのため、哺乳瓶が口腔内に入ることを嫌がったり、哺乳瓶が口腔内に入ると嘔気がみられることで、経口哺乳の移行が困難となります。ですが、注入時間を1時間程度設けている児でも、経口哺乳を試みて、先述のような所見を認めない場合は、経口哺乳が可能となります。[理学療法士 木原秀樹]

Q29:「直接授乳、乳頭混乱、カップ授乳」

直接授乳(直接母乳:直母)にビン哺乳を併用していた児が、修正2ヶ月になり瓶哺乳を嫌がるようになりました。直母のみでは哺乳時に父親との交代ができず、母親の疲労が生じています。カップ授乳(フィーディング)やスプーンでの授乳を検討していますがいかがでしょうか?

A29:「2ヶ月、ベビーカップ、技術指導」

赤ちゃんは生後からしばらく原始的な反射(探索・吸啜・嚥下反射など)で哺乳しますが、月齢(修正)2ヶ月頃になると自分の意志で哺乳を行う時期に移行していきます。そのため乳頭混乱が生じやすくなります(2ヶ月前から生じる児も少なくありません)。哺乳混乱が生じると、直母とビン哺乳を併用することは困難になります。ただし(抱っこであやした後など)児が眠い・うとうとしているときは、ビン哺乳を受け入れるときがあります。そのほかにカップ授乳を用いる方法もあります。専用のベビーカップ(メデラ)を用いると授乳を行いやすいですが、導入時には両親への技術指導が必要です。カップ授乳など代替手段も受けつけない、保育者の都合で実施困難な場合は、児の成長(身長・体重)の伸び方を見ながら、離乳期まで経管栄養を併用することも選択肢に入ります。[理学療法士 木原秀樹]

Q30:「脊髄性筋萎縮症、口腔機能、口腔内マッサージ」

嚥下は比較的保たれている脊髄性筋萎縮症Ⅰ型の乳児で、口腔機能の発達促進のために口腔内マッサージは適応になるでしょうか?

A30:「Werdnig-Hoffmann病、筋力低下、口腔の遊び」

脊髄性筋萎縮症Ⅰ型(重症型:Werdnig-Hoffmann病)の乳児では、生後6ヶ月頃までに運動発達が停滞すると報告されています。通常は6ヶ月頃から離乳期の口腔機能が獲得され、食生活が広がっていきます。脊髄性筋萎縮症の児は口腔機能も含めたあらゆる筋肉の筋力低下が主症状になります。そのため口腔機能の発達も停滞しやすくなります。口腔内マッサージを実施することで、動きの乏しい口腔内・周囲の筋肉の柔軟性の向上や口の動きの増加を認める場合は有効であり、継続することが望ましいです。また、指しゃぶりや遊具を舐める・モグモグする(食べる)も勧め、口腔機能の発達を促し、離乳期では離乳初期食を楽しめる目標で、口腔の遊びを促す介入も必要です。[理学療法士 木原秀樹]

Q31:「小顎、ゼコつき、下顎保持」

小顎がある児で、哺乳をしているとゼコつきが出てきます。このような児には下顎保持での哺乳を行うと良いと聞きました。それはどうしてでしょうか?また他に良い対応はありますでしょうか?

A31:「先天性奇形症候群、舌根沈下、下顎前方」
未発達の顎(小顎)の児は、染色体異常による先天性奇形症候群の疑いの場合があります。例えばピエール・ロバン症候群の児は、口蓋裂や小顎があり、低緊張や口腔内容積の関係で舌根が中咽頭まで落ち込む舌根沈下を認めやすいです。口蓋裂や小顎のため、口腔内の形態と乳首の形状が合いにくく、吸啜のしにくさを認める児も多いです。また舌根沈下により、上気道(咽頭部など)が狭窄・閉塞しやすい、嚥下時の喉頭閉鎖(喉頭蓋が気道の入口を塞ぐ)も不全となりやすいなどを認め、ミルクが咽頭(特に喉頭蓋の縁にある梨状陥凹)に残留し、ゼコつきを認めやすくなります。哺乳時に下顎を保持し顎を前方に出すことで、舌根もつられて前に出やすくなり、それにより上気道が開き、嚥下時の喉頭閉鎖も改善傾向を認めやすくなります。さらに舌根沈下を防ぐ体位として、ややうつ伏せ気味の側臥位、抱っこでの腹臥位なども有用です。[理学療法士 木原秀樹]

Q32:「ビン乳首、児に合う、観察ポイント」

各社・各種でさまざまな乳首がありますが、その乳首が児に合っているかの判断や観察のポイントを教えてください。

A32:「吸着、蠕動運動、口角」
赤ちゃんが乳首をくわえた際(吸着時)に、瓶なしで乳首を内側から覗くと、口腔内と乳首が密着し隙間がないこと。乳首の吸着後、吸啜を始めた際に軽く哺乳瓶を引っ張った時、乳首が口から抜けないことが、児に合っているかの判断の目安になります。また、乳首を内側から覗いた際に、乳首下側を包む舌の波打つ蠕動運動が見えること。哺乳時に心拍・呼吸数・酸素飽和度が安定していること。哺乳時にミルクが口角などから垂れてこないこと、なども観察ポイントになります。[理学療法士 木原秀樹]

Q33:「哺乳、ムセ、水平側臥位」

哺乳時にムセや徐脈がある児は水平側臥位だと上手く飲めると聞きましたが、その理由を教えてください。

A33:「1回嚥下量、迷走神経反射、適切な量」
哺乳時のムセは、1回に嚥下可能な量以上にミルクが口腔(咽頭)内に流入してくる場合に観察されやすいです。例えば、3回の連続的な吸啜に1回の嚥下が起きるような吸啜と嚥下の協調不全、吸啜圧が強い、乳首の穴が大きく1回の吸啜で多量にミルクが口腔(咽頭)内に流入してくるなどになります。嚥下時にムセをともなうことが続くと、迷走神経反射が起こり、心拍数が低下して徐脈になります。水平側臥位では、背臥位や上体挙上位と違い、ミルクが重力に引かれて口腔(咽頭)内に必要以上に流入することが少なくなり、吸啜した分だけ(乳首が合えば適切な量が)口腔(咽頭)内にミルクが流入してくるため上手に飲める児がいます。[理学療法士 木原秀樹]

Q34:「吸啜反射、消失、代替手段」

吸啜反射など哺乳時の原始的な反射が消失後、上手に哺乳できない場合に代替手段がありますか?

A34:「2ヶ月、カップ授乳、経管栄養」
赤ちゃんは生後からしばらく原始的な反射(探索・吸啜・嚥下反射など)で哺乳しますが、月齢(修正)2ヶ月頃になると自分の意志で哺乳を行う時期に移行していきます。その移行期で、手術などの治療を経て哺乳機会を逃すと、吸啜をしなくなる、哺乳を拒否する児が少なからずいます。そのような場合は、スポイトやシリンジでの哺乳、カップ授乳などが代替えの方法になります。専用のベビーカップ(メデラ)を用いると授乳を行いやすいですが、導入時には両親への技術指導が必要です。また必要哺乳量が摂れないこともありますので、離乳期まで経管栄養を併用することも選択肢に入ります(参考A29)。[理学療法士 木原秀樹]

Q35:「吸気狭窄音、軟化症、舌根沈下」

哺乳中に吸気狭窄音が聞こえる児がいます。軟化症の可能性が高いでしょうか?舌根沈下で上気道が狭くなっている可能性もありますでしょうか?

A35:「気道確保、哺乳姿勢」
哺乳中に吸気狭窄音が聞こえる場合は軟化症も疑います。軟化症の場合は啼泣時の吸気時に狭窄音が聞こえます。ただし、哺乳中に酸素飽和度がそれほど低下しない、啼泣時にも吸気狭窄音が聞かれない場合は、舌根沈下での上気道狭窄の可能性があります。軟化症がある程度顕著であれば、経鼻高流量酸素療法(NHF)や持続的気道内圧陽圧(N-DPAP)などで気道を確保しつつ哺乳練習を行うと、児は哺乳しやすくなります。軽度の軟化症であれば、時期が経つと自然軽快してきます。舌根沈下の場合は、頸部~頭部をしっかり押さえて体を起こして哺乳をする、側臥位で哺乳するなど、背臥位を避けます。姿勢を変えることで飲めるようになると、舌根沈下の影響が明確になります。[理学療法士 木原秀樹]

Q36:「早産・超低出生体重児、哺乳後、嘔吐」

早産・超低出生体重児で、哺乳後2時間程度空いても嘔吐があります。口腔内や四肢の過敏性の軽減などを図りましたが、嘔吐防止にはつながらず、リハビリテーションでできることはありますか?

A36:「経管栄養、少量・頻回哺乳、ポジショニング」
哺乳での優先は体重増加になります。そのため、胃までの管で嘔吐がある場合は、小腸まで管を挿入したEDチューブになります。またトロミ剤の使用やトロミ付きミルクを使用も検討します。胃管での経管栄養のみで嘔吐が無い(少ない)場合は、一旦経口哺乳を中止することも選択肢になります。経口哺乳での嘔吐は、ある程度時期が経たないと(成長しないと)改善してきませんので(児も経口哺乳を嫌いになってきますので)、あまり頑張らなくて良いと考えます。哺乳は経管栄養で、離乳期から経口摂取練習を行う流れも一案で検討します。経口哺乳を継続する場合、何mlまでであれば嘔吐しにくいか確認し、5-10ml/回の少量でも経口哺乳練習として続ける意義もあります。基本は少量・頻回哺乳になります。リハビリテーションとしては、哺乳中や哺乳後の安静を保つポジショニングの設定が有用な役割になります。ポジショニングとして哺乳後は上体挙上位(30度以上)での右側臥位や腹臥位が有用です。[理学療法士 木原秀樹]

Q37:「哺乳時、姿勢、ポイント」

哺乳時はどのような姿勢が良いか、姿勢で注意するポイントを教えてください。

A37:「直接授乳、ビン哺乳、吸着」
直接授乳(直接母乳)での姿勢には、レイドバック法、横抱き、交差横抱き、縦抱き、フットボール抱きなどがあります。おっぱいの吸着がより良い抱き方を試しつつ、児に合った姿勢を見つけます。ビン哺乳では、基本的に横抱きや縦抱きになりますが、頭部と体幹の軸がねじれないように頸部を支えます。横抱きで顔向きを授乳者に向けやすい児の場合は、縦抱きを試みます。たいていの正期産児は多少頸部が伸展していても、吸啜や嚥下に支障はありませんが、舌が歯ぐき付近まで前に出てこない(上手に吸啜ができない)、嚥下音が大きい(空気をいっしょに飲んでいる)などを認める場合は顎を若干引くようにします。体幹・臀部も支えることで、児は安心・安定した哺乳ができます。[理学療法士 木原秀樹]

Q38:「ビン哺乳、乳首、選択基準」

NICUでのビン哺乳では、ピジョンの母乳実感SSの乳首を最初に用います。乳首の選択基準を教えてください。

A38:「吸着、蠕動運動、1回嚥下量」
赤ちゃんの哺乳不良の原因の一つに乳首のミスマッチがあります。乳首には、乳首の大きさ・形状・硬さ、穴の大きさ・形状などが違う様々な種類があります。乳首の大きさ・形状・硬さは哺乳時の吸着に影響します。空の乳首を児に吸ってもらい、乳首から口腔内を覗き、口蓋・頬・舌が乳首に密着し、哺乳時口腔内に隙間がない吸着が良い(および舌の蠕動運動を妨げない)乳首を選びます。穴の大きさ・形状は哺乳時の嚥下に影響します。穴が小さすぎる場合は、嚥下に影響は及ぼしにくいものの、哺乳量が増えず、疲労で哺乳を止めてしまうことがあります。穴が大きすぎる、形状によりミルクが出やすい場合は、1回嚥下量を超えた分のミルクが咽頭に流れ込み、ムセたり、一時的に呼吸を止めたり、誤嚥リスクが高くなります。1回で嚥下できる量が流入する乳首を選びます。[理学療法士 木原秀樹]

Q39:「探索・吸啜反射、歯茎、舌が出ない」

ここ数年、仮死で生まれていない新生児でも探索反射や吸啜反射が出にくい児が増えてきたように感じます。そのため乳房への刺激が少なくなり人工乳になる場合も多いです。探索や吸啜の際、歯茎より前に舌が出ない児への対応について教えてください。

A39:「反り返り傾向、顎を引く、細めのもの吸啜」
原因は不明ですが、胎内での口唇や指しゃぶり行動(経験)が少なくなってきているかもしれないです。探索や吸啜の際、舌が歯茎より前に出ない新生児として、(他動的に舌を引っ張り出し)舌小帯が先天的に短縮していないか、口蓋が高く(もしくは割れて)舌が上方へ動くほうが多いか、を診ます。その上で、授乳での吸着時に舌が前に出にくく、上手におっぱいを捉えにくい場合は、
①首や肩甲帯周辺の緊張をほぐし、首や上半身の反り返り傾向を軽減し、顎を引くように吸着させます(首が反ると舌根が沈下しやすく舌が前に出にくくなるため)。

②両親の手指など、細めのものを吸啜する練習をします(おっぱいのような大きさは舌が出にくく、口腔内がいっぱいにならない舌が出やすい・巻きつく余裕をあるものを吸います)。また手指なども口腔奥まで入れず、口唇より少し先に入れる程度で、自ら舌を前に出すような反応を促します。

③応用として、カップフィーディングで舌が出やすくなるか練習を試みても良いです。
[理学療法士 木原秀樹]

■療育

Q1:「セラピストと家族、役割」

障がい、障がいリスクを持つ子どもとの関わりで、理学療法士等のセラピストと家族の役割について教えてください。

A1:「体の動かし方、社会性」

あまり例えが良くはないですが、野球で例えるなら、各選手にボールの投げ方やすぶりのようなバットの振り方(体の動かし方)を教えるのは理学療法士等セラピストの役割、野球のルールや監督や選手間の関係のとり方を教える(つまり社会性)を教えるのは家族(および社会)の役割になります。各選手がコーチングされてきた練習を家庭で自主トレするのを支援するのは家族の役割になります。ただ、家族がセラピストになる必要性はなく、食事を与える、排泄を手伝う、お風呂に入れる、いっしょに遊ぶなどの一般的な子育てをすることが、当たり前ですが家族の役割になります。子育ての中で育児に対する困り感が出てきた場合は、セラピストが支援します。また、セラピストは体を動かす方法を教えるだけでなく、社会性を身につけるための土台となる精神・言語な能力の方法を教える役割もあります。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「療育、視点」

障がい、障がいリスクを持つ子どもの療育で大切な視点について教えてください。

A2:「成人期、社会性」

障がい、障がいリスクを持つ子どもの療育で、最終的(成人期に至る)に大事な発達は社会性(社会との関わり方)になります。運動発達では、屋内での床上移動が自助具・補装具を使わずでき、周囲(ヘルパーなど社会資源を含む)の理解があれば、自立した生活ができます。精神発達(知的発達)では、程度において、日中活動の場が変わります。子どもは子どもからの刺激に対して一番反応が良いです。また子どもの世界、大人の世界に早くから入ることで、周囲の理解も得られやすく、社会性も築かれます。ただ、集団活動が増すことによる課題も出現してきますので、いわゆるその困り感は理学療法士等(保健師、保育士、教員、行政など含む)が課題解決に向けて支援します。子ども達が大きくなるにつれて、家庭内でできる関わりに限界がきます。療育の主な場所は保育園や学校に移ります。保育園や学校での集団生活に馴染めない場合は、通園(児童発達支援センター)などを併用利用し、小集団での療育を行い、必要な環境設定、発達支援を明らかにし、保育園や学校にフィードバックできる仕組みを作っていきます。それを一助できる可能性があるのが、その子の成育歴を記録でき、支援者に伝えられる文科省が推奨し、各市町村での作成指示が出ている相談・支援手帳と言われるもので、回答者らが作成したものは“個別支援手帳” (http://heartful.mirainokaze.com/) になります。[理学療法士 木原秀樹]

■災害リハビリテーション

Q1:「体を動かす、体や心の負担を和らげる、厳しい状況」

災害時、体を動かすことで、体や心にかかる負担が少しでも和らげることができるけど、それをすることが厳しい状況にある場合、どうすれば良いでしょうか?

A1:「散歩、身体機能の低下、役割を与える」

体を動かす方法で一番容易いのは散歩になります。気分転換に散歩に誘い、歩行が不安定な場合は手をつないで誘導することで、相手も安心感を持つことができます。2023年に厚労省が出した指針では、高齢者の身体機能を維持するためには、1日数回に分けて6,000歩歩くことが必要とされています。6,000歩/日はかなりの歩数ですが、高齢の方が迷惑をかけまいとじっとして、その日々が続き、身体機能が急速に低下し、逆に介助量が増えていく可能性があり、それはかえって、周囲の方に負担をかけることになる、ことを正直にご本人に伝えます。それは本人の本望ではないですよね?ということを伝えます。被災された場での役割を与えていき、その上で活動・歩く機会が増えることが、体にも心にも理想的な促しです。[理学療法士 木原秀樹]

Q2:「自立、意識ない、対応」

支える側である私達は自立させたいという気持ちがあっても、高齢者などの配慮が必要な人たちが「全部やってほしい」と自立意識がない場合は、どう対応したらいいでしょうか?

A2:「要配慮、地域包括ケアシステム、平時から」

要配慮の方々が「全部やってほしい」と自立意識がない事由は、平時に問題があります。地域包括ケアシステムの構築の要となるべく交付された介護保険法は、高齢者の介護予防に主眼が置かれ、介護保険の保険料を引き下げることに主目的があります。しかし現状は、身体や家事などの介護サービスは、その方に代わって全部やってあげます、という状況になっており、ご本人がそれらをできるようになるために支援(お手伝い)するという、自立を支援するサービスにはなっていません。現状(平時)ですでに、介護サービス=×=自立を支援する、になっていますので、災害時にはましてや、全部やってくれれば、かえって他人さまには迷惑はかけない、という意識になります。平時から、自分のことはできるだけ長く自分で行う、できないことはできるように支援していく、自立している方は他者の自立を支援する、という意識で関係者はかかわることが、災害時に「全部やってほしい」という方々を減らすことにつながります。[理学療法士 木原秀樹]

Q3:「避難所、効果的、体操」

避難所で体を動かすとき、より効果的な体操は何ですか?

A3:「抗重力運動、柔軟体操、座位より立位」

体操には数えきれないような多種類があります。身体に一番有効な体操のパターンは、両手を挙げて万歳をする、両脚を持ち上げるなど、いわゆる“抗重力”、つまり重力に対抗した(天に向けた)運動になります。体操の基本は、抗重力運動を行うことで、四肢(手足)・体幹(腹筋や背筋)の筋力の維持・向上を図ります。また身体活動が減少していき、体が硬くなっていくことで、体を曲げて行う靴下や靴などを着脱する、肩の可動域が小さくなり上着が着にくくなるなど、身辺動作が困難になってくることもありますので、体を柔らかく保つ柔軟体操も大切です。抗重力運動は、普段から体操教室などでよく行われている体操の一部ですが、転倒予防のために、椅子に座って体操を行う場合が多いです。立てる方は寄り添いながら転倒に注意し、立って体操を行うことが、さらなる転倒予防に有効ですので、“座位より立位で”を心がけます。これらの様々な要素が入っており、多くの方がすぐに実行できるのが“ラジオ体操”になりますので、そのようなコンテンツを使用するのも良いです。[理学療法士 木原秀樹]